東京は台東区・蔵前。……と言われても、ピンとこない人は多いかもしれません。
浅草の南に位置し、ここ3年ほどで感度の高いショップやカフェが集まり賑わいを見せる、今や東京のイーストサイドを代表するエリアです。
しかしこのコロナ禍で、観光客は激減。2020年6月の訪日外国人数は前年同月比-99.9%と、浅草周辺はその影響を最も受けているといっても過言ではないでしょう。
そんな状況下でも、以前から粛々と準備を進めてきた新しいお店は、常時よりも不安な思いを抱えながらオープン当日を迎えます。
今回取材した「チルトコ」も、そうした“withコロナ時代の新店”の一つ。
本格グルメバーガー×本格喫茶
▲お店があるのは、蔵前エリアの北側を横に走る「春日通り」から一本入った路地裏
6月2日にプレオープン、7月1日にグランドオープンを迎えたばかりの「チルトコ」。
お店のコンセプトは、ハンバーガー専門店と喫茶店を組み合わせた「バーガー喫茶」です。
何はともあれ、飲食店のありようを物語るのは提供される料理にしかず。
早速、食事をいただきましょう。
まずはハンバーガーサイドの看板メニュー「角煮バーガー(1,540円)」から。
▲「角煮は煮込めば煮込むほど脂身が柔らかくなって、ちょっとバターのような濃厚な甘味が出てくるので、実はハンバーガーと相性がいいんです」(青木さん)
お店のコンセプトから、一見インスタ女子をターゲットにしたお店? と思いきや、やってきたのはパティの上に角煮がのった、予想以上に肉々しいハンバーガー。
一口目の主役は、ジューシーなパティとたっぷりかかったチェダーチーズ。東京の並みいるハンバーガー専門店にも引けをとらない、本格派のグルメバーガーです。
ゆっくり食べ進めていくと、徐々に広がってくる長ネギの香ばしい風味に導かれ、ようやく真打ちの角煮が登場。
ジューシーでしっかりしたパティとは対照的に、甘みがあってトロリとした角煮。個性が異なる、和洋の肉料理の共演です。ハンバーガー好きなら満足できないはずがない。
こちらは、喫茶サイドの看板メニュー「KAMINARI クリィムソーダ(605円)」。
▲「KAMINARI クリィムソーダ」はなんと16種類! 竹炭を使った「くろ」はパインカルピス味、「とうめい」はミント味など、色ごとに味も異なります。今回はオーダーが多いという「あお」と「黄色」をいただきました
浅草エリアにちなんで雷型のクッキーがのった、懐かしさも感じさせる正統派クリームソーダ。ハンバーガーの合間に口にすれば、バニラアイスと爽やかなソーダが脂を流してくれ、ますます食が進みます。……意外と試したことないかも、この組み合わせ。
そしてデザートは「プリン・ア・ラ・モード(440円)」。
一周回って今リバイバルしつつある、昔ながらの固いプリン。こちらもビジュアルを裏切らない安心のおいしさです。
「ハンバーガー」と「喫茶」、どちらをとっても隙のない本格指向。……このお店、只者ではないぞ!
“4文字&カタカナ”の美学
こちらがそんな「チルトコ」店主の青木健吾さん。まずは、「バーガー喫茶」というユニークなコンセプト誕生までの経緯を聞いてみました。
──「チルトコ」という店名の由来について教えてください。
青木さん:「チル」は英語で「くつろぐ」とか「リラックスする」意味の“Chill”で、「トコ」は日本語の“所”ですね。
〇〇ダイナーみたいな横文字の名前もかっこいいけど、老若男女に来ていただける親しみやすいお店にしたかったので。耳に残って覚えやすく、口にしたくなる感じを意識して付けました。
──老舗の喫茶店っぽさもありますよね。「ミロンガ」とか「ワンモア」とか。
青木さん:そうですね、「ギャラン」とか。4文字かつカタカナで「チルトコ」なのが喫茶店っぽいなって。
▲レトロとモダンが同居する内装。右奥にはレコードプレーヤーも
──この物件、「チルトコ」の前は喫茶店だったんですか?
青木さん:いえ、イタリアンだったみたいですね。居抜き物件なんですけど、もともとこの床だったんですよ。内装も床からイメージを膨らませて、ほぼDIYで作っていったんです。
壁の緑色は「和」のイメージですね。盆栽や抹茶、畳の枠だったり、緑って日本っぽい色じゃないですか。
すごいぞ、日本のハンバーガー
▲定番メニューの一つ、“海苔わさびソース”を使った「アボカドバーガー」(1,430円)。添加物を使わない、自家製ソースもチルトコのハンバーガーの特長。わさびが肉に合うのは知っていたけど、海苔もこんなにマッチするんですね…!
──そもそも「バーガー喫茶」というコンセプトは、どうやって生まれたのでしょう。
青木さん:ハンバーガー屋さんをやりたい、というのがまずあったんです。
海外が好きでこれまで20カ国以上を訪れたんですけど、海外のハンバーガーって赤身がメインで、肉もパサつき気味だったりして、僕の感覚ではそんなに美味しくないんですね(笑)。
それに比べて日本のいわゆる「グルメバーガー」って、肉汁を大事にしていたり、具材が合わさったとき美味しくなるよう計算して作られていて、むちゃくちゃ美味しいんですよ。
──日本のハンバーガー、そんなに進化していたとは。
青木さん:カレーライスが日本食として定着しているように、日本のグルメバーガーが海外に行っても、日本の料理として受け入れられるはずです。
だから僕も、海外の人が食べたときに「日本のハンバーガー」として成り立つような料理を目指しています。
蔵前という立地を選んだのも、外国人の方に食べていただける場所というのが大きかったんですよ。
▲ハンバーガーのトップメニュー。日本の食材をフィーチャーした、他ではなかなかお目にかかれないハンバーガーが並ぶ。次ページには「スリーチーズバーガー」「バーベキューパインバーガー」など、オーセンティックなバーガーも豊富
──その考えは、「角煮バーガー」や自家製の“海苔わさびソース”を使った「アボカドバーガー」、「味噌エッグバーガー」といったメニューにも表現されていますね。
青木さん:はい。特に味噌って、海外の日本食レストランでもすごい人気があるんですよ。醤油にしてもその他の発酵調味料にしても、「うま味」というのが日本食の持ち味なので。
──「和」の食材や調味料とハンバーガーの「洋」の具材を組み合わせるのって、苦労されました?
青木さん:そうですね……実は僕、ハンバーガー屋さんで働いたことがないんです。
日本料理やイタリアン、餃子屋さんなどいろんな業態で働いた中で吸収させていただいたものを、ハンバーガーに落とし込む。
「ハンバーガーを作る」と言うよりも、あくまで「美味しい料理を作る」というイメージでやっています。
王道メニューこそ「喫茶」である所以
──なるほど。「ハンバーガー専門店」だけでも成立しそうですが、なぜそこに「喫茶店」の要素が加わったのでしょう?
青木さん:基本的にハンバーガー屋さんって、14、15時ごろにいったん閉めて、17、18時ごろからディナーを始めるお店が多いんですよ。
でも、僕は通しで営業したかった。午後のアイドルタイムにお客さまに来てもらうためにはどうすればいいか考えた結果が「喫茶」だったんです。
──「カフェ」ではなく、「喫茶」なんですね。
青木さん:「喫茶」は日本の文化ですから。日本らしさを売りにしたいのが根本にあったので、「ハンバーガーカフェ」にはしたくなかったんですよね。
名古屋みたいな喫茶文化が根付いている地域でも「バーガー喫茶」って見たことがないし、新しくて面白い試みなんじゃないかなって。
▲喫茶メニューの「あんバターパウンド(440円)」。青木さんいわく “喫茶メニューの定番、シベリアをチルトコなりの解釈で昇華したメニュー”とのこと
──メニューもすごく喫茶文化へのリスペクトが感じられます。
青木さん:やっぱり喫茶店らしさって、THE・喫茶なメニューにあると思うんですよ。王道が喫茶であることの所以だと思うので。
コーヒーも浅煎りのフルーティーなものでなく、なるべく深煎りでほっとするような味わいにしています。
──「バーガー喫茶」のモデルにしたお店はありますか。
青木さん:名古屋の「シヤチル」ですかね。あっちの方にはかっこいいハンバーガー屋さんもたくさんあるんですけど、「シヤチル」の“グランド喫茶”というコンセプトがイメージに近いなと。
これからは「昼の飲食」の時代?
挑戦的なハンバーガーにしても、喫茶の王道メニューにしても、「日本でお店をやる意味」をこだわり抜いた青木さんなりの解釈が見られます。
それにしても、当初メインターゲットだった外国人観光客がほとんど歩いていないというこの危機的状況を、「チルトコ」はどのようにして乗り切ってきたのでしょう。
──緊急事態宣言が解除されてからのオープンとはいえ、この状況で開店するのは大変でしたよね。
青木さん:そうですね。お店の準備を始めたのも、ちょうどコロナウイルスが流行り出すのと同じタイミングで。
ただ、ピンチはチャンスでした。ハンバーガーのテイクアウトは、テレワーク中の方から需要が高かったんです。
──確かに、ハンバーガーって必ずしもお店で食べたい料理ではないですものね。
青木さん:コロナ以降で実際に加速しましたけど、これからはテレワークが主流になっていく予感はしていたんです。
出社しないことでお昼や朝に時間の余裕のある方が増えてくると、朝・昼向けの飲食店も盛り上がってくるんじゃないかって。ハンバーガー屋さんを選んだのも、「昼の飲食」というのが一つの理由ですね。
だから、今のところ夜の営業は金・土のみ、おつまみ系のサイドメニューも提供していなくて。
──かなり思い切ったメニュー構成だなと感じました。 お客さんはオープン直後から集まってくれましたか。
青木さん:蔵前という立地は、海外や他の街からのお客さまがたくさん来ると思っていたので、最初は「全然ダメだろうな」と予想していたんです。
プレオープンの2日間も「絶対来ないから」と、初日と翌日で10食ずつしか用意していなかった。でも、予想外に地域のお客さまがたくさん来てくださって。一時間半ほどで20食分が売り切れてしまったのは、うれしい誤算でしたね。
──お客さんはどういった層の方が?
青木さん:最近住み始めたママさんがベビーカーを押してお茶しに来てくれたり、この辺りに昔から住んでいるおばあちゃんたちが2、3日に一回来てくれたりします。
──早くも常連さんが付いているんですね。……ちなみに、おばあちゃんもハンバーガーを食べて行かれるんですか?
青木さん:はい、キッズサイズの小さめなハンバーガーだったり、お肉の代わりにアボカドを入れた特注バーガーを頼まれますね。プリンやクリィムソーダも「懐かしい」って言って注文してくださいます。
▲喫茶のもう一つの看板メニュー「レモネェド(385円〜)」。クリィムソーダ同様、こちらも色によって味が異なる。輪切りにしたレモンを入れるなど、喫茶メニューならでの工夫も
──へぇ! 喫茶目的だけでいらっしゃるお客さんもいますか?
青木さん:はい、ハンバーガーと喫茶のお客さまでは利用する時間帯※が違うんですよ。お昼はハンバーガーしか売れないですし、真昼からお茶しに来る方はほとんどいませんから。
※いずれの時間帯も、全メニューが注文可能。
──お客さんの滞在時間はどのくらいですか?
青木さん:喫茶目的の方でも、全日平均して30分から1時間くらいですかね。蔵前という土地柄、カフェ巡りをされる方が多く、一つのお店にずっと滞在する方は少ないです。
ただ、ゆったり目の平日には、PCを持ってきて作業されている方もたまにいらっしゃいますよ。今はイートインの方が少ないので、店内を使っていただけるのはお店側としてもプラスになるんじゃないかなって。
今のところは、これでうまく回っているのかなと思います。
──例えば、テイクアウトのハンバーガーができるのを待っている間に、店内でドリンクだけ飲んでいく方もいます?
青木さん:いらっしゃいますね。ほかには「自分はドリンクだけ飲んでいくけど、家族にハンバーガーを買って帰ります」という方も。
──このお店ならではの使い方ですね!
……そんな話をしていたら、お客さんが。
「こんにちは、終わり? ……撮影? だめよ、私たち写しちゃ」
先ほど青木さんが話していた常連のおばあちゃん二人組だ!
写真は早々に断られてしまったが、少しだけお話はお伺いすることができました。
「だってここが一番近いんだもの、浅草の喫茶店は遠くて。それに、ここは人が良いのよ」
▲おひと方は、「みどり」のクリィムソーダを注文されていました。ザ・王道!
オープンして気づいた、“ローカルなお店”の強み
──「チルトコ」、今のところは何とか軌道に乗っているのでしょうか。
青木さん:まだまだ目指すところまで行けていませんが、どうしようもないという状況ではないですね。
──今後、「チルトコ」をどういう場所に育てていきたいですか?
青木さん:基本的には、地域の方に愛されるお店にしていきたいです。このひと月半を支えてくださった温かいお客さまに還元したいですし、今回みたいな予想できないことが起きたとき、海外のお客さま頼りになるよりも、地域に根差したお店の方が強いのかなって。
──オープンして初めて見えてきたことですね。
青木さん:かつ、外からのお客さまにも目指して来ていただけるお店になればいいな、って思います。
普段グルメバーガーを食べない人にも食べていただけるよう、喫茶メニューを作ったこともあるので、「クリィムソーダ」を入り口にハンバーガーへたどり着いてもらえればうれしいですし、その逆でハンバーガーから喫茶にたどり着いてもらってもうれしいですね。
・・・
“バーガー喫茶”という独自のコンセプトで、早くも地元の老若男女の心をつかみ始めている「チルトコ」。
和風グルメバーガーや、再評価されつつある純喫茶など、食のトレンドをきっちり押さえたお店でありながらも、料理人として地に足がついた青木さんの姿勢が、幅広いお客さんを呼び込む秘密なのかもしれません。
コロナ禍以降、飲食店に足が向きにくくなっている人も多い一方で、「新しいお店ができたから行ってみたい」「今日食べたもの以外にも気になるメニューがあったからまた行きたい」という外食への欲求は、そうそう無くなるものではないはず。
“withコロナ時代”の新しいライフスタイルに寄り添いながらも、そうした欲求を確かに満たしてくる、「これからの飲食店」と言うべきお店でした。
お店情報
バーガー喫茶 チルトコ
住所:東京都台東区蔵前4-33-1 エルミタージュ浅草 1F
電話:050-5849-8813
営業時間:〈日〜木〉11:30〜17:00、〈金・土〉11:30〜21:00
定休日:不定休
"バーガー" - Google ニュース
August 07, 2020 at 05:00AM
https://ift.tt/33MZ5M7
コロナ流行後にオープンした「バーガー喫茶」は、下町のおばあちゃんもチルする“昼の時代”の新店 - メシ通
"バーガー" - Google ニュース
https://ift.tt/2LttLYE
Shoes Man Tutorial
Pos News Update
Meme Update
Korean Entertainment News
Japan News Update
No comments:
Post a Comment