自分を「辛党」と言ったり、友人を「あの人は辛党だから」と呼んでみたり。特に違和感なく使っている辛党という言葉ですが、本来の意味が「辛いものが好き」ではなかったと知ったら驚きますよね。本当の意味は何なのでしょうか。
本記事では辛党の意味やその由来をご紹介。併せて紹介する類義語や対義語を知れば、辛党という言葉への理解がより一層深まりますよ。
辛党の意味・由来
辛党という言葉の意味はずばり、「甘いものより、お酒を好む人」という意味です。読み方は「からとう」です。
「辛」という文字が入ることから、唐辛子や香辛料を使う辛い味付けを好む人のことと捉えてしまいがちですが、本来は違います。
また、「甘いものより」とあえて甘いものを引き合いに出しているところもポイントです。以前からお酒と甘いものは相反するもの、つまり「お酒を好きな人は甘いものが好きではない」という認識があったことが分かります。
「辛い」という言葉の意味は
辛党がなぜお酒好きな人を指すのか。そこには「辛(から)い」という言葉の意味に理由があります。
昨今の激辛ブームの影響もあり、辛いという言葉は唐辛子や香辛料を使った刺激の強い味を指すと思われています。しかし昔の日本には、こうした刺激的な辛い味の食べ物はあまりありませんでした。
「辛い」はもともと「舌をピリピリと刺激するような味覚」を指し、塩辛い(しょっぱい)味やすっぱい味に使われていたのです。これは酒の風味にも当てはまり、アルコール度数の高い酒や甘味の少ない酒を「辛い」と表すこともあります。お酒の味を表現するものとして、「辛口」なんて表現もよく聞きますね。
辛党は、もともと酒好きのこと
辛党が「お酒好き」の意味で使われていたことは昔の文献からも分かります。1935年に俳人である種田山頭火が発行した『其中日記』では以下のような記述があります。
「私は酒も好きだが、菓子も好きになつた(何もかも好きになりつつある、といつた方がよいかも知れない)、辛いものには辛いもののよさが、甘いものには甘いもののよさがある、右も左も甘党辛党万々歳である。」
種田山頭火は旅の途中で知った食べ物やお酒を日記にまとめており、そのなかで酒好きのことを上記のように「辛党」と表現しています。
塩辛い味が好きという意味も
辛党がもつ意味は、時代とともに少しずつ変化していきます。 1960年に発行された松田道雄著『私は赤ちゃん』では、「固形食の味は、から党には塩気を多くし、甘党には甘味を多くしてやればよろしい」という記述があります。
まさか赤ちゃんにお酒を与えるはずはないので、この「から党」は「塩辛いものが好き」の意味で使われていたことが分かります。
この頃にはすでに辛党という言葉は、お酒好きと塩辛いもの好きの両方を指すことが一般的でした。詳しいことは分かっていませんが、酒のつまみには塩辛いものが多く存在することも、セットの意味で使われることになった理由かもしれません。
「激辛が好き」も間違いではない?
その後、時代とともに食が多様化し、激辛と呼ばれる料理が広まったことで、辛党は「お酒好き、塩辛いもの好き」に加えて「唐辛子やわさびなどの刺激が強い味が好き」の意味でも使われるようになりました。こうした使い方を「本来の意味とは違うから誤り」と言いきることはできないでしょう。
ただし、辞書には前述のとおり「甘いものよりも、お酒を好む人」とされています。激辛が好きという意味は、本来の意味には含まれていないことは押さえておきましょう。
辛党の類義語
辛党の意味や由来について解説してきました。では辛党の類義語にはどのようなものがあるのでしょうか。
左・左党
お酒が好きな人を指す「辛党」のことを、「左」「左党(さとう)」とも呼びます。以下がその由来だとされています。
昔の職人は右手に槌(つち)を、左手にノミを持って仕事をしていました。そのため右手を「槌手(つちて)」、左手を「ノミ手」と呼び、この「ノミ手」が酒好きを指す「飲み手」と同音であることから、ノミ手すなわち左を、酒好きを表現する言葉として当てはめたのです。
上戸
「上戸(じょうご)」もお酒好きを指す言葉です。お酒をたくさん飲めるという意味を含んでいます。
律令制を敷いていた昔の日本では、家族の集合を大戸・上戸・中戸・下戸と呼んでおり、階級が高いほど裕福さゆえ酒を多く用意できた、とされています。これが酒好きを上戸と呼ぶ由来です。
上戸という言葉には、「笑い上戸」や「泣き上戸」という言葉もあります。これはお酒に酔った状態でよく笑うこと、またはよく泣くことを指します。
のんべえ・のみすけ
大酒飲みのことを、人名にように表す「のんべえ(飲兵衛)」「のみすけ(飲み助)」などの言葉もあります。お酒におぼれ、落ちぶれたくらしをする人を嘲笑するときに使うこともあります。
辛党の対義語
辛党の類義語の次は、対義語を紹介していきましょう。
甘党
「辛い」の反対はやはり「甘い」ですね。甘党は、辛党の対義語として使われます。
ただしここでも辛党と同様に、「お酒よりも、甘いものを好む人」と辞書にあり、お酒が引き合いに出されています。「甘いものが好きな人はお酒が苦手」だという認識があったことが伺えます。
しかし今では、お酒も甘いものもどちらも好きというスタイルが一般的になりました。そのためお酒の好き嫌いに関わらず、単純に甘いものが好きな人を甘党と呼ぶこともあります。
右・右党
類義語で「左・左党」を紹介しましたが、その反対を指す言葉として「右・右党(うとう)」があります。つまり、お酒が好きでない、お酒に弱い人という意味です。
下戸
「下戸(げこ)」も、類義語で紹介した「上戸」の対義語です。お酒が好きではない、たくさん飲めない人を指します。
また、現在ではお酒をまったく受け付けない体質の人のことも、下戸と呼びます。
辛党の英語表現
辛党という言葉を直訳できるような英語表現はありません。英語圏で「酒好き」というと、アルコール依存症のイメージが強いからです。
単に「a drinker」と表現できますが、他にも以下のような例があります。
- She likes to drink.(彼女はお酒を飲むことが好きだ)
- He prefers alcohol to sweets.(彼は甘いものよりもお酒を好む)
では辛党の対義語である甘党は、どう表現するのでしょうか。英語表現には、「お酒よりも甘いものが好き」という意味を表す言葉はありません。つまり以下に例に挙げるように、お酒の好き嫌いに関係なく単に「甘いものが好き」という意味になります。
- I like sweet things.(私は甘いものが好きだ)
- She has a sweet tooth. (彼女は甘党だ)
辛党は「辛いもの好き」の意味だけではない
辛党の本来の意味、理解していただけましたか。「辛」という言葉はもともと、お酒の味や酸味、塩辛さを指す言葉だったなんて、驚いた方もいるでしょう。
食習慣が大きく変わり、激辛料理なるものも広まったいま、「辛党」という言葉はスパイシーで刺激的な辛い味を好む人を指すとしても間違いではありません。ただし、もともとは「お酒が好きな人」を指すということは、覚えておきたいものです。
類義語の「左党」という言葉は、もとは「ノミ手」だったというのも興味深い話です。飲み会の小ネタとして知っておいて損はありませんね。
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