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Sunday, August 28, 2022

チョコは四角より丸のほうが甘い? 赤く着色された白ワインは赤ワインと区別できない? 見た目も「味」に含まれるといえる理由(2022年8月29日)|BIGLOBEニュース - BIGLOBEニュース

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私たちは「美味しさ」をどのように判断しているのでしょうか——(写真提供:photoAC)

「美味しい」と感じる日々の食事。しかし、その「美味しさ」は舌だけで決まるものではなく、見た目や咀嚼音なども影響しています。九州大学大学院比較社会文化研究院講師の源河先生によれば、「視覚や聴覚の情報によって、私たちは<美味しさ>を錯覚することすらある」とのこと。たとえば、赤く着色された白ワインは、専門家でも見抜くことが難しいそうで——。

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「美味しさ」は聞こえる音でも変わる

まず、イグノーベル賞をとったチャールズ・スペンスの研究を紹介しよう。それは「ソニックチップ」という名前でよく知られている(スペンス[2018]p.16、ハーツ[2018]pp.176-177)。

その実験の参加者はマイクとイヤホンをつけてポテトチップスを食べる。マイクは口のなかでポテトチップスが噛み砕かれたときの音を拾っており、その音はイヤホンから聞こえるようになっている。

つまり、実験参加者は自分の咀嚼音を聞くのだ。ただし、イヤホンから流れる音はさまざまに加工することができる。参加者が聞く咀嚼音は、音量や周波数が上げられたり下げられたりしているのだ。


ポテトチップスの美味しさは音で決まる!?(写真提供:photoAC)

ポテトチップスと咀嚼音の関係

音を加工したときに何が起きただろうか。まず、音量や周波数が上げられた咀嚼音を聞いたときには、ポテトチップスは新鮮でパリパリしておいしいと評価された。これに対し、音量や周波数を下げた場合には、しなびていておいしくないと評価された。賞味期限が切れているか開封後時間がたったものだと思った実験参加者は全体の4分の3もいたという。

しかし、参加者が食べたポテトチップスはすべてその場で開封したものだった。音量と周波数を上げた咀嚼音を聞いた場合でも、それらを下げた咀嚼音を聞いた場合でも、新しいポテトチップスが食べられていたのである。この実験が示しているのは、聴覚で感じられた音によって触覚で感じられる食感に錯覚が起きるということだ。

この実験と前述の多感覚知覚の話を合わせると、聴覚と触覚は口に入れた食べ物の食感に関して情報調整を行っているということになる。食感は多感覚的に知覚されているのである。

そして、食感は普段感じられる味の重要な要素の一つとなっていた。そうであるなら、私たちが普段感じている味には聴覚が得た情報も含まれているということになる。味は耳でも感じられているのだ。

四角より丸いチョコレートの方が甘い!?

次に視覚を検討しよう。食べ物の情報を最初に得る感覚が視覚であることは非常に多い。嗅覚が先に反応することもあるが、においが強くない食べ物であれば、最初にその色や形が目に入る。そして、こうした視覚情報も味に影響することを示す例がある。


『「美味しい」とは何か——食からひもとく美学入門』(著:源河 亨/中公新書)

まず、形に関する印象的なエピソードを紹介しよう。イギリスのお菓子メーカーであるキャドバリーは、2013年に「デイリーミルク」というチョコレートバーの形を変更した。以前は角張った形をしていたが、丸みを帯びたものになったのである。そうすると、「甘すぎる」「しつこい」「前の方がおいしかった」というクレームが寄せられたそうだ。

形を変えることで量が数グラム減ってはいたが、メーカーはチョコレートのレシピに変更はないと主張した。この例が示しているのは、形によって味が変わるということだ。丸い形の方がより甘く感じられてしまうのである(スペンス[2018]pp.85-86、ハーツ[2018]p.168)。

形だけでなく色も味に影響する。たとえば、ピンクに着色した液体と緑に着色した液体では、緑の方が糖分が10%多かったとしても、ピンクの方が甘く感じられる。また、オレンジ色のマウスウォッシュと青色のマウスウォッシュでは、たとえ有効成分の配合が同じでも、青の方がより渋く感じられるという(スペンス[2018]pp.81-82)。

さらに、色はにおいも変化させる。たとえば、チェリー、オレンジ、ライムのジュースを薄め、においだけでそれぞれを区別することは困難にしても、チェリーを赤色、オレンジジュースをオレンジ色、ライムを緑色に着色すると、においで区別できる確率が上がる(増田[2011]p.131)。私たちが普段経験する味の大半はにおいからできていたので、色によるにおいの変化は、そのまま味の変化ということになるだろう。

白ワインと赤ワインの意地悪な実験

こうした色の影響は、専門知識がある人でも避けられないようだ。ここで、ワインの色に関する意地悪な実験を紹介しよう(Morrot et al. [2001]、以下の要約はグッド[2018]pp.14-16、シェファード[2014]pp.197-199、ハーツ[2018]p.140に基づく)。

その実験にはボルドー大学醸造科の学生54人が集められた。ソムリエほどではないにしても、それなりに専門知識をもっている人たちだ。参加者には赤ワインと白ワインが配られ、それを飲んで評価してもらった。もちろん、二つのワインは違ったように評価された。

参加者は数日後にも集められ、まったく同じ赤ワインと白ワインを飲んだ。ただし今度は白ワインが味に影響のない着色料で赤くされていた。すると、本物の赤ワインと着色された白ワインの味や香りが同じ言葉で表現されたそうである。

数日前に着色されていない白ワインを飲んだときにはその味や香りが「蜂蜜」「メロン」「バター」といった白ワインの表現としてよくある言葉を使って表されたが、赤く着色した白ワインの味や香りは「タバコ」「チョコレート」「チェリー」といった赤ワインによく使われる言葉で表現されたというのである。

以上のように、食べ物の色や形、つまり見た目も味に影響する。食べ物がどのように見えるかで、どのような味に感じられるかが変化してしまうのだ。そうすると、見た目という視覚情報も文字通りの意味で味の一部となっていると言えるだろう。だからこそ食品メーカーは昔から食べ物の見た目にこだわっているのだ(食べ物の色の重要性をめぐる歴史的事情については久野[2021]を参照)。

※参考文献

スペンス、チャールズ[2018]『「おいしさ」の錯覚——最新科学でわかった、美味の真実』、長谷川圭訳、KADOKAWA。

ハーツ、レイチェル[2018]『あなたはなぜ「カリカリベーコンのにおい」に魅かれるのか——においと味覚の科学で解決する日常の食事から摂食障害まで』、川添節子訳、原書房。

増田知尋[2011]「視覚による食の認知」、日下部裕子・和田有史編『味わいの認知科学——舌の先から脳の向こうまで』、勁草書房、第6章、pp.117-135。

Morrot, G. et al. [2001] “The color of odors”, Brain and Language 79 (2): 309-320.

グッド、ジェイミー[2018]『ワインの味の科学』、伊藤伸子訳、エクスナレッジ。

シェファード、ゴードン・M[2014]『美味しさの脳科学——においが味わいを決めている』、小松淳子訳、インターシフト。

久野愛[2021]『視覚化する味覚——食を彩る資本主義』、岩波新書。

※本稿は、『「美味しい」とは何か——食からひもとく美学入門』(中公新書)の一部を再編集したものです。

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