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Sunday, February 26, 2023

太る人と太らない人の違いは? 食の影響の個人差を解析へ - 日本経済新聞

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甘い物を毎日食べているのにまったく太らない友人や、飽和脂肪酸を控えているのに心臓病を患った親族はまわりにいないだろうか。このように、食べ物への反応は人によって異なるが、万人に推奨される食事にはその個人差が考慮されていない。

だが、食事に関して米国で大規模に行われる新しい調査が、この現状に変化をもたらすかもしれない。この調査で得られた知見によって、専門家は各個人に合った栄養を提案できるようになるだろう。

米国立衛生研究所(NIH)は2023年の春から、各個人により適した栄養を提案する「精密栄養(プレシジョン・ニュートリション)」にとって重要な要素をより的確に突き止めるために、全米の13カ所で幅広い年齢と体重を含む合計1万人を対象に調査を開始する。今回はとりわけ65歳以上の高齢者や非白人、地方の住民、障害のある人々、性的マイノリティーなど、栄養学で見過ごされがちな人々も含まれるよう配慮することになっている。

調査の第1段階では、参加者は普段と同じ食生活を2週間続ける。第2段階では、1500人が対象となり、数種類の食事から1種類が割り当てられ、自宅に届けられる。最終段階では、500人が選ばれ、研究センターで2週間生活しながら食事をする。

大規模で多様性に富むこの取り組みよって、「多様な人々に対し、各個人に合った栄養をよりきめ細かく提案できる段階に一歩近づくでしょう」と、参加者登録地の調整を担う6つの研究センターのひとつである米タフツ大学の代謝研究者、サイ・クルパ・ダス氏は話している。

従来の栄養学調査とは何が違うのか

調査では、定期的に尿と血液を検査する。また、一人ひとりの「腸内微生物叢(そう)」(マイクロバイオーム)、つまり消化管にいる数兆個もの細菌などの微生物を調べる。参加者は、グルコース(ブドウ糖)モニターを装着して、血糖値の変動を記録する。血糖値は、体内における炭水化物の消化吸収や代謝の状態を示し、健康状態の重要な指標となる。また、睡眠やストレス、食事の時間、その他の日々の行動も記録される。

この新たな調査は一般的な栄養学の調査とは根本的に異なるため、食生活に対する理解を変えることになるだろうと、調査に参加している米陸軍士官学校の数学教授、ダイアナ・トーマス氏は考えている。栄養学者は、均質な集団で単一の食材を調査するのが一般的だ。例えば、ブルーベリーが米国人の心血管疾患のリスクを低減させるかどうかを調べる(その答えはまだ定かでない)。しかし、今回の調査はそうした仮説から入るのではなく、栄養に対する反応に「関与している要素は何かを追究するのです」とトーマス氏は言う。

目標は、栄養への反応に影響を及ぼす多くの要素を突き止め、これらを予測するアルゴリズムを開発して、似た特性をもつ他の人々に栄養指導を提供できるようにすることだ。

ダス氏は、人々の健康状態を向上させるには、もっと的確な栄養指導が不可欠だと指摘する。現状では、多くの人が専門家の栄養指導に耳を貸さなくなっている。専門家の助言が頻繁に変わったり(典型的なのは卵で、体に悪いとされたり良いとされたりする)、提案された食事を試しても本人には合わなかったりするからだ。

「精密栄養では、『地中海式ダイエットをしましょう』というような一律の提案よりも的確な栄養指導が可能になるでしょう。例えば『あなたの属する民族、特性、食物に対する反応を考えると、この食事が合っているかもしれません』と提案することができます。私たちは、こうした段階に近づこうとしているのです」とダス氏は説明する。

ただし、この調査から引き出される新しい提案は、個人別に最適化されるレベルには到達しないだろう、とダス氏はくぎを刺す。「個別化(パーソナライズド)栄養」という用語も広く使用されているが、専門家が「精密栄養」という表現を好んで使用するのは、そのためだ。

遺伝子と微生物叢

数十年に及ぶ研究の結果、健康全般に寄与する要素については、すでに手がかりが得られている。

そのひとつが遺伝子だ。タフツ大学の栄養・ゲノミクス部門を率いるホセ・オルドバス氏によれば、この分野は以前「栄養ゲノム学」(ニュートリゲノミクス)と呼ばれたが、食品に対する体の反応に遺伝子が果たす役割は、当初考えられていたほど大きくないことが明らかになり、あまり注目されなくなった。

ただし、特定の遺伝子が健康に直接影響することがわかっている例も少数だが存在する。例えば「CYP1A2」という遺伝子は、肝臓で酵素がカフェインを代謝する速さをほぼ単独で決定する。

夜にコーヒーを飲むと、朝まで眠れなくなる人もいれば十分に安眠できる人もいるのは、遺伝子の多様性によるものだ。また、コーヒーを飲むと運動の集中度が高まる(より速く自転車をこぐことができるなど)かどうかにも遺伝子が影響する。

「遺伝子の関与はありますが、それを各個人の栄養指導に反映させるのは難しいでしょう。そのほかに関与する要素はたくさんあるからです」とオルドバス氏は話している。「こうした要素の多く、特に行動は、遺伝子よりも簡単に変えられますから、それらを理解することで、より効果的に健康を増進させるアプローチにつながります」

腸内にすむ細菌、真菌、寄生虫、ウイルスなどの微生物叢が食べ物の消化や代謝に大きく関わっていることは、数百にのぼる研究で明らかになっている。一例を挙げれば、人工甘味料を摂取すると微生物叢の構成と働きが変化して、健康な人において耐糖能異常(血糖値が高い状態)が増加することが示された。また、肥満マウスでは、減量後も、体重を再び増やす特定の腸内微生物が生き残っており、ヒトでも同様だと推定されている。

微生物叢については、その最適な構成や、どのような相乗効果で働くか、ライフスタイルによる影響など、まだ明らかにすべき点が多く残っていると、イスラエルにあるワイツマン科学研究所のシステム免疫学部門を率いる微生物叢研究者、エラン・エリナブ氏は説明する。

ライフスタイルが食物の消化や代謝にもたらす影響

一人ひとりに合った的確な食生活を見つける上で厄介なのは、遺伝子、微生物叢、「エクスポソーム」(ヒトが生涯に影響を受ける環境因子の総体)と呼ばれる生活要因の間に複雑な相互作用がある点だ。

エリナブ氏によれば、この生活要因のひとつが夕食を食べる時間だという。氏の研究室は、腸内微生物叢が概日(がいじつ)リズムに従っており、1日の間に周期的に数と働きを変化させていることを明らかにした。微生物叢は、睡眠と食事に反応して、こうした変化を生じさせている。

「シフト勤務や時差ぼけで睡眠と覚醒のパターンが乱れると、最初に起きるものの一つが微生物叢の日周活動の混乱です」とエリナブ氏は話す。睡眠と食事の時間が長期にわたって不規則な人では、肥満度や2型糖尿病、がんの発症が増加するが、マウスの実験の結果、このような微生物叢の変調が原因であることが示唆されている。

タフツ大学のダス氏によれば、睡眠不足や強いストレスは代謝作用をさらに混乱させ、健康な食生活を送る人にも悪影響をもたらすという。

今回のNIHによる調査は、遺伝子と微生物叢、エクスポソームを用いて、食物に対する反応を理解し、予測しようとする最も包括的な取り組みだ。しかし、これが初めての試みではなく、過去の複数の研究が下地となっている。

エリナブ氏の研究室が中心となって実施した研究は、2015年に学術誌「Cell」に発表された。この研究では、800人に同じ食事を提供し、血糖値を継続してモニターした。1週間の調査で、食事後の血糖値の変化に著しいばらつきがあることがわかった。微生物叢の構成は血糖値の変化に重要な役割を果たしていたが、当然ながら、その他の要素も関与していた。

数年後、関与する要素についての理解を深めるため、英国で大規模な研究が行われた。「PREDICT」(食事内容に対する個別化反応試験)と名づけられたこの研究には、一卵性の双子を含む成人1000人が参加し、参加者の腸内微生物叢、血中脂質量、食後の血糖値、炎症、その他の要素を2週間にわたって調査した。論文の共著者の一人であるタフツ大学のオルドバス氏は、この研究でも1日の血糖値を追跡し続けることが重要だったと話している。こうした継続的なモニタリングによって、特定の食品がもたらす影響を計測することができた。

この研究でも幅広い変動が確認され、同じ栄養でも参加者によって消化や代謝には開きがあることが明らかになった。遺伝学的要因の影響は小さいことが確認されたが、研究結果からは消化器官がもつ複雑さが示された。

NIHの調査では、こうした違いをもたらす要因をさらに深く理解することを目指す。この調査を受けて、ライフスタイルや食生活、さらには腸内微生物叢を整えることができるようになれば、さまざまな栄養に対する反応も改善すると期待されている(食生活の変化などを通じて変化した微生物叢が継続的な影響をもたらすかどうかは、まだわかっていない)。

ダス氏によれば、今のところ、栄養に関する最善のアドバイスは基本的に従来と変わらず、食物繊維が豊富な野菜や果物をたくさん食べることと、高度に加工された食品を避けて自然食品を選ぶことだ。

「今後5年から10年で、食生活に対する見方が大きく変わるはずです」と、米陸軍士官学校のトーマス氏は予想している。「NIHの調査結果が明らかになってくれば、もっと多くの点が解明されますから」

文=MERYL DAVIDS LANDAU/訳=稲永浩子(ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで2022年2月8日公開)

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