健康法を知っているだけでは健康にはなれません。本当に正しいとされている健康法を、きちんと行動に移し、毎日無理なく続けるためには技術が必要です。本連載の「健康になる技術」とは、健康でいるために必要なことを実践するスキルです。簡単に言うと、健康になるために「What(何)」を「How(どのように)」行ったら良いのか、自分の環境や特性(弱点・強み)に合わせて実践する技術のこと。本連載では、話題の著書『健康になる技術 大全』の著者、林英恵が「食事」「運動」「習慣」「ストレス」「睡眠」「感情」「認知」のテーマで、現在の最新のエビデンスに基づいた健康に関する情報を集め、最新の健康になるための技術をまとめていきます。何をしたら良いのかはもちろんのこと、健康のための習慣づくりに欠かせない考え方や、悪習慣を断ち切るためのコツ、健康習慣をスムーズに身につけるための感情との付き合い方などを、行動科学やヘルスコミュニケーションのエビデンスに基づいて、丁寧にご紹介していきます。今回は、「サプリメントは健康にいいのか?悪いのか?」についてです。(写真/榊智朗)
監修:イチローカワチ(ハーバード公衆衛生大学院教授 元学部長)
*書籍『健康になる技術 大全』の「食事の章」はケンブリッジ大学疫学ユニット上級研究員 今村文昭博士による監修
世界中での「糖類」をめぐる潮流の変化
砂糖を含む糖類と、健康の話をする際、欧米では「Sugar is next to tobacco:糖類はたばこの次(に体に悪い)」や「Sugar is the new tobacco:糖類は新しいたばこだ」という言い方をすることがあります。これは、健康への害や、産業界との関連、そして税金の話が常に伴うたばこと、糖類が似ていることを表現した言い回しです(*1-3)。甘いものが好きな人にとっては耳の痛い言葉でしょう。
2015年、WHO(世界保健機関)が砂糖などの糖類の摂取に関する新しい指針を発表しました。具体的には、砂糖などの糖類を、1日に摂取するエネルギー(単位:カロリー)の5%未満に抑えるべきとして、平均的な大人で、約大さじ2杯分の糖類(25g程度)を上限とすることを推奨しています(*4)。
「糖類」の定義は、組織や国によって細かい定義が異なりますが、要するに、砂糖やシロップなどが入っている食べ物や飲み物は避けましょうということです。
WHOは、過去にも糖類摂取の抑制を図ろうとしましたが、業界団体の反対で実現できなかったことがあります(*5)。しかし、今回は、世界中での健康志向の高まりを受けて、指針が改正されることになりました(*4)。業界も世界的な健康へのニーズに追従せざるをえなくなったのです。
例えば、スイスの大手食品会社であるネスレは、これに伴って、よけいな糖類を従来より3割減らした商品を売り出したり、早速新しい指針に沿った形での商品を開発しています(*5)。
そもそも「糖類」とは何か?
通常一般的に使われている「砂糖(グラニュー糖という意味での粒状のもの)」という言葉と、科学の世界で使われる「sugar(シュガー)」の意味するものは異なっています。さらに、科学の世界で使われる「sugar」も、国や機関によって様々な種類の分け方や定義の考え方があります(*6)。
一つひとつ細かく見ていくとややこしいので詳細は省きますが、健康を考える上で、言葉が定義するものをきちんと理解することはとても大切です。そういった背景もあり、この本では、一般的な「砂糖」と区別をするために科学の世界で使われる「sugar」を「糖類」という呼び方にしています。ここではWHOの定義を紹介します。
このWHOの指針では、制限の対象としている糖質の「単糖類(ブドウ糖・果糖等)及び二糖類(ショ糖・食卓砂糖類)」の定義を「人が食品・飲料に人為的に添加したものおよび、蜂蜜・果汁・濃縮果汁中の天然に存在しているもの」としています(*4,7)。
平たくいうと、一般的に加工食品や清涼飲料に加えられる糖分(砂糖・シロップ)や、ハチミツや果汁ジュース(加工された果物の飲料や、果物を絞ったジュース)に含まれる糖類を指します(*5,8,9)。米や野菜に含まれるデンプン、牛乳などに含まれる糖質(乳糖)は含まれません(*9)。私たちが一般的に使ういわゆる「砂糖」は、二糖類のショ糖と呼ばれるものです。
「空のカロリー」:砂糖やシロップは必要のないエネルギー源
人工的に食品に添加された砂糖などの糖類は、そもそも穀物や野菜から炭水化物をとっていれば必要のないものであり、その摂取によって肥満や糖尿病、虫歯の原因になり、さらに重篤な疾患(心臓の病気など)を引き起こすと考えられています(*4)。
こうした糖類は何も栄養分を足さないのにエネルギーの摂取量を増やしてしまい、健康的な生活の質を低下させる可能性があるため(*4)、カロリーは高いが、栄養はほとんどない「空のカロリー(empty calorie・エンプティー カロリー)」の元と考えられています(*10)。これは、決してゼロカロリーという意味ではありません。
大人の半数以上、未就学児の90%以上が摂り過ぎ
日本人は、どのくらいよけいな糖類を摂取しているのでしょうか?
2018年の論文では、日本人の20~69歳の男女を調べたところ、WHOの基準の糖類の摂取量は男女とも1日35.7gでした。仮に1日2000kcalのエネルギー摂取が適当とすると、WHOの推奨は25gなのですでにオーバーしています。望ましいとされる基準を超えている、つまり糖類がエネルギー量に占める割合が多い大人の男性は55.6%、女性は87.8%でした(*11)。
また幼児・未就学児・就学児については、どの年代でも半数以上、未就学児に至っては、90%以上の子どもがWHOが推奨する基準を超えていると推定されています。
これは、あくまで平均を基準に換算されたものなので、甘いものが好きな人は、もっと消費している可能性があります(*11)。私はこの論文を見て、日本人は思ったよりも糖類の摂取量が多いと感じました。特に、大人の女性や未就学児の数字が突出しているので、気になります。
【参考文献】
*1 Ecenbarger W, Aikins MS. Sugar, the new tobacco: reader's digest Canada; 2016. [cited 2021 Dec 17]. Available from: https://ift.tt/mqYHKJa.
*2 Ravichandran B. Sugar is the new tobacco. BMJ Opinion; 2013 [cited 2021 Dec 17]. Available from: https:// blogs.bmj.com/bmj/2013/03/15/balaji-ravichandran-sugar-is-the-new-tobacco/.
*3 Albert T. Sugar is the new tobacco. Here’s why. The Globe And Mail; 2014 [cited 2021 Dec 17]. Available from: https://ift.tt/hozTQti.
*4 World Health Organization. Guideline: sugars intake for adults and children. Nutrition and Food Safety; 2015.
*5 日本経済新聞. 1日の糖類は小さじ6杯分まで WHOが新指針. 2015. [cited 2021 Dec 17]. Available from: https://ift.tt/pJzjm1Z.
*6 Mela DJ, Woolner EM. Perspective: total, added, or free? What kind of sugars should we be talking about? Adv Nutr. 2018;9(2):63-9.
*7 Ludwig DS, Hu FB, Tappy L, Brand-Miller J. Dietary carbohydrates: role of quality and quantity in chronic disease. BMJ. 2018;361:k2340.
*8 World Health Organization. Reducing free sugars intake in children and adults. [cited 2021 Dec 17]. Available from: https://ift.tt/Nj7Qp6J.
*9 Swan GE, Powell NA, Knowles BL, Bush MT, Levy LB. A definition of free sugars for the UK. Public Health Nutr. 2018;21(9):1636-8.
*10 Reedy J, Krebs-Smith SM. Dietary sources of energy, solid fats, and added sugars among children and adolescents in the United States. J Am Diet Assoc. 2010;110(10):1477-84.
*11 Fujiwara A, Murakami K, Asakura K, Uechi K, Sugimoto M, Wang H-C, et al. Estimation of starch and sugar intake in a Japanese population based on a newly developed food composition database. Nutrients. 2018;10(10):1474.
(本原稿は、林英恵著『健康になる技術 大全』から一部抜粋・修正して構成したものです)
パブリックヘルスストラテジスト・公衆衛生学者(行動科学・ヘルスコミュニケーション・社会疫学)、Down to Earth 株式会社代表取締役、慶應義塾大学グローバルリサーチインスティテュート特任准教授、東京大学・東京医科歯科大学非常勤講師
1979年千葉県生まれ。2004年早稲田大学社会科学部卒業、2006年ボストン大学教育大学院修士課程修了、2012年ハーバード大学公衆衛生大学院修士課程を経て、2016年同大学院社会行動科学部にて博士号取得(Doctor of Science:科学博士・同学部の博士号取得は日本人女性初)。専門は、行動科学・ヘルスコミュニケーション、および社会疫学。一人でも多くの人が与えられた寿命を幸せに全うできる社会を作ることが使命。様々な国で健康づくりに携わる中で、多くの人たちが、健康法は知っていても習慣づける方法を知らないため、やめたい悪習慣をたちきり、身につけたい健康法を実践することができないことを痛感する。長きにわたって頼りになる「健康習慣の身につけ方」を科学的に説いた日本人向けの本を書きたいと思い、『健康になる技術 大全」を執筆した。
2007年から2020年まで、外資系広告会社であるマッキャンヘルスで戦略プランナーとして本社ニューヨーク・ロンドン・東京にて勤務。ニューヨークでの勤務中に博士号を取得。東京ではパブリックヘルス部門を立ち上げ、マッキャンパブリックヘルス・アジアパシフィックディレクターとして勤務後、独立。2020年、Down to Earth(ダウン トゥー アース)株式会社を設立。社名は英語で「実践的な、親しみやすい」という意味で、学問と実践の世界を繋ぐことを意図している。現在は、国際機関や国、自治体、企業などに対し、健康に関する戦略・事業開発、コンサルティングを行い、学術研究なども行っている。加えて、個人の行動変容をサポートするためのライフスタイルブランドの設立準備中。2018年、アメリカのジョン・ロックフェラー3世が設立したアジアソサエティ(本部・ニューヨーク)が選ぶ、アジア太平洋地域のヤングリーダー“Asia 21 Young Leaders”に選出。また、2020年、アメリカのアイゼンハワー元大統領によるアイゼンハワー財団(本部・フィラデルフィア)が手がける、世界の女性リーダー“Global Women’s Leadership Fellow”に唯一の日本人として選ばれる。両組織において、現在もフェローとして国際的な活動を続ける。
『命の格差は止められるか ハーバード日本人教授の、世界が注目する授業』(小学館)をプロデュース。著書に、『健康になる技術 大全」(ダイヤモンド社)、『それでもあきらめない ハーバードが私に教えてくれたこと』(あさ出版)がある。
https://hanahayashi.com/
からの記事と詳細 ( 【糖類は新しいタバコ?】甘いものが好きな人にとっては耳の痛い真実 - ダイヤモンド・オンライン )
https://ift.tt/36c4iV8
No comments:
Post a Comment