「ドでかい」ハンバーガー~直火焼きでファン急増中
「デカいもの」という意味の「ワッパー」を売りにするハンバーガーチェーンの「バーガーキング」。その「ワッパー」が「バーガーキング」では普通サイズだ。
【動画】賛否両論でファンを獲得 バーガーキング復活劇の舞台裏
マヨネーズを塗ったバンズの上にレタスとトマトを2枚。パティはビーフ100%。さらにオニオンやピクルスをのせてバンズを重ねたら完成する。大きさは一般的なハンバーガーの約1.4倍、直径13センチのビッグサイズだ。なみに一般的な大きさのものは「ワッパーJr.」として販売している。
味も他とはひと味違う。その秘密が肉の焼き方である。多くのハンバーガーチェーンは鉄板で焼いているが、「バーガーキング」は上下からあぶる直火焼きなのだ。余分な脂を落としてうま味を凝縮させ、他にはないスモーキーな「バーベキュー感」のある味を実現している。
味も大きさもアメリカン。それがファンの心を掴んでいる。
「バーガーキング」は1993年、アメリカから初上陸。しかし業績不振などの理由から一時日本撤退を余儀なくされるなど、苦戦を強いられてきた。
ところが現在、店舗数は3年半で倍増し220店を超えている。売り上げも4年連続で伸びていて、2024年は300億円を突破する見込みだ。
人気の理由には価格設定もある。客の一人は「『マクドナルド』はお昼だと安いけど、お昼を過ぎて夕飯に食べると高くなる」と言う。「バーガーキング」ではいつ行ってもセットメニューの値段は変わらない。
例えば「キングミール ワッパーチーズJr.」はハンバーガーとドリンクにナゲット、アップルパイ、ポテトがついて850円。さらにアプリをダウンロードするとクーポンがもらえて200円引きになる。お得感でも客を惹きつけていた。
人気の理由はまだある。「アグリー ザ・ワンパウンダー」(1990円)は4枚の肉をはさんだバーガー。1ポンドは約450グラムだが、これはその上を行く総重量約500グラム、約1400kcal。この「デカ盛り」に挑戦したいという客が結構いるのだという。年に数回、この巨大バーガーの食べ放題イベントも開催している。そこには大食いフードファイターたちが力試しに続々とやってくるという。
出店ラッシュが続く「バーガーキング」。この日は東京・板橋区の成増に新店がオープンした。現場でポスターの位置や色まで細かく指示を出しているのが、「バーガーキング」を運営するビーケージャパンホールディングス社長・野村一裕(45)だ。
「お店の数が少な過ぎるということが、一番お客様からの指摘で多い。まずはそこをきちっと埋めていく。このまま5年後には600店舗のチェーンになりたい。そこを目指しています」(野村)
「バーガーキング」の店舗数は、業界首位の「マクドナルド」や2位の「モスバーガー」とはまだ差が大きい。だが2028年末までに現在の約3倍、600店を目指している。
ビーケージャパンホールディングス(東京・千代田区)は2017年に設立。本社勤務や各店の店長など約300人の社員が在籍している。
驚きの「賛否両論」戦略~メニュー・広告が大バズリ!
大躍進する裏には、このブランドをバズらせ続ける野村の戦略があった。
「しょせんマックには勝てない。ずっとそう言われてきましたが、50分の1、100分の1の予算しかかけられなくても、それを工夫するのがマーケティングや新商品開発です」(野村)
〇バズらせる戦略1~賛否両論のメニュー
新商品を生み出すテストキッチンでは、商品開発部の今井奈緒美が7月に発売する4枚肉バーガーを試作していた。チーズとスモーキーなベーコン、トマトを合わせた商品だ。
発売前に必ず味を確認して、ゴーを出すのが野村の仕事だ。3つ目を食べたところで「これでいこう。おいしい」となった。
味に自信を持って出している4枚肉シリーズだが、客からは「大きすぎる」「絶対頼まない」という声もある。実は「バーガーキング」の商品には否定的な声も多い。
たとえば期間限定で売り出した「ザ・フェイク・バーガー」。
バンズに挟んでいるのは肉ではなくチーズとポテトだけ。これが発売されるとネットは大騒ぎになった。「おいしい」という声がある一方で「飲み込みにくそう」「ポテトはポテトで食べたい」と、賛否両論を巻き起こした。こうしてバズらせるのが、野村の狙いなのだ。
「51人が賞賛しているけど、49人が『おいしくない、面白くない』と言えば、それこそがバズりと炎上のぶつかりをしているところ。そこに大きなウネリができていくので、51が『賛』であればいいと思っています」(野村)
〇バズらせる戦略2~ライバルに敬意と挑発
もうひとつ野村が重視するのが広告戦略だ。去年10月、大阪の繁華街・千日前にあった「マクドナルド」が撤退。その跡地にバーガーキングが出店することになった。その新店舗に掲げる広告についての会議が行われていた。
案の一つが「おじゃマするで~」という大阪弁のもの。次の案は「バーガーキングでごめんなさい。」という見出しに「前と違うバーガー屋さんでごめんなさい。本場アメリカのお店でごめんなさい。鉄板焼きじゃなくてごめんなさい。おもちゃがなくてごめんなさい。」と続くもの。
そして実際に掲げたのが「あとは、お任せアレ」だった。
バトンを渡している手が「ドナルド・マクドナルド」をイメージさせる……。
このように、野村は『マクドナルド』を意識して仕掛け続けてきた。
「この業界は『マクドナルド』ありきで回っています。我々は我々の方向を見てもらわないといけないので、そこに対して『私たちもいますよ』というアピールをする」(野村)
2020年、秋葉原店では2軒隣の「マクドナルド」が閉店することになり、「22年間たくさんのハッピーをありがとう。」というポスターを掲げた。一見するとマックに敬意とねぎらいを込めたメッセージが書かれていたが、文面の左を縦読みすると「私たちの勝チ」と読める。このポスターもSNSで大バズりした。
「私たちが出したものに対して、賛成していただける人と反対してくれる人が絶対いる。その人たちが面白おかしく話してくれるほどおそらくストーリーとして成り立っていく。そこにピンを置きます」(野村)
日本撤退、大量閉店…~復活のカギは「王者マック」?
野村は1978年、父の赴任先のドイツ・ハンブルクで生まれた。2002年、上智大学を卒業すると「キリンビール」に入社。提携していた「バドワイザー」のマーケティングを手掛けて成功し、マーケターとしての頭角を現していく。
2017年、「自分の力を外で試したい」と「キリンビール」を退社。いくつかの企業でマーケティングに携わる中、紹介されたのがバーガーキングだった。
「最初に誘われた時に『100店舗規模のファストフードチェーンに興味ありませんか』という声掛けだった。それがバーガーキングだったんですけど、『どこに100店舗もあるの』というぐらい存在感が薄いブランドだなと思った」(野村)
日本のハンバーガーチェーンは1971年、アメリカから「マクドナルド」が上陸。翌年には「モスバーガー」や「ロッテリア」がオープンし、大手3社が市場を固めていく。
そこから遅れること20年、1993年にようやく「バーガーキング」が日本に上陸した。
しかしデフレ真っただ中の2000年、「マクドナルド」が半額キャンペーンでハンバーガーを65円で販売すると、価格競争に巻き込まれたバーガーキングは経営に行き詰まり、進出からわずか8年で日本撤退を余儀なくされた。
2007年に再上陸を果たすも経営は軌道にのらず、2017年には香港の投資ファンドが設立したビーケージャパンホールディングスが事業を引き継ぐこととなった。
「『バーガーキング』をよく知っているという人はいる。行ったことあるか、ないかといえば、ない人が多い。そこのギャップが大きいほど、自分のマーケターとしての仕事がたくさん残っている。チャレンジできるという意味で入社の決め手になりました」(野村)
「バーガーキング」に躍進の可能性があると感じた野村は2019年、マーケティングの責任者として入社した。
その直後、野村はアメリカの本社が展開していた画期的な集客作戦に衝撃を受けた。
それは「回り道ワッパー」作戦。「マクドナルド」の店舗の180メートル以内に入ると、「バーガーキング」からアプリに通知が届き、「ワッパー」が1セントで買えるクーポンがもらえるというもの。さらにその「マクドナルド」から一番近い「バーガーキング」の店舗へ道案内までしてくれる。
この作戦は全米でも「最高にクール!」「卑怯すぎる」と賛否両論を呼んで大バズり。アプリのダウンロードは150万件に達した。
「やはり他社に対してそういうことをやるのはドキドキハラハラする。人に驚きを与えて楽しみもあって、なおかつ両方得をする。ブランドも得ですし、ファンの皆さんも得。全てが一個のパッケージになっていて、すごいと思いました」(野村)
この成功により、2019年に世界3大広告賞のひとつ「カンヌライオンズ」の3部門でグランプリを受賞する。日本のマーケティング部門の代表として授賞式に参加した野村は、興奮した。
「すぐに日本に帰って自分もこういうことをやりたい、と。少しクリエイティブに考えたり、アンチに触れてしまうところはありますが、そこのバランスをどうやってとっていくか学びになりました」(野村)
これを機に野村は賛否両論を呼ぶ広告を次々に打ち出し、バズらせていく。そして2023年、社長に就任。低迷していた日本の「バーガーキング」復活の先頭に立っている。
物件紹介で客に10万円!?~斬新すぎる出店戦略の狙い
千葉県・市川市の新規出店の候補地。野村は物件の候補地があると必ず自ら足を運ぶ。
「今日4軒くらい回りましたが、ほぼ行けるんじゃないか。年内にうまく交渉がまとまれば全部オープンしていきます」(野村)
コロナ禍では空き店舗が増えて物件を手に入れやすかったが、今はライバルも出店攻勢に転じ、取り合いの状態になっている。
そこで「バーガーキング」は物件探しでもアイデアで仕掛けた。それが客から出店できそうな物件を募る「バーガーキングを増やそう」というネット広告だ。
実際に出店すれば、その物件を紹介した人に10万円が贈呈される(現在は募集を終了)。結果は想像以上で、全国各地から75000件もの応募があったという。
ただの話題作りにも見えるが、別の狙いはマーケティング調査にあった。
「例えば西武新宿線沿いの中で、どっちの駅に出したほうがいいか、一目瞭然です」(野村)
どのエリアに客の出店ニーズがあるかを炙り出したのだ。
「出店をどこにしたらいいか目に見える形なので、あとはそこを埋めていく。話が早いですよね」(野村)
ビーケージャパンホールディングスの社員は99%が転職組。そこで親睦を深めるため、毎月社内で飲み会を開いている。「もともとは新卒で客室乗務員として3年働いた」(入社5年目、社長秘書兼通訳)、「前職は外資系の広告代理店」(入社2年目、マーケティング本部)。そもそも社長の野村も転職組だ。
「新しい仲間にどんどん入ってもらって、さらに高いところを目指していけたらなと思います」(野村)
※価格は放送時の金額です。
~村上龍の編集後記~
ハンバーガーは若者の食べ物だ。初めて食べたのは、ローリング・ストーンズが来ると、チケットを買うために路上にならんだときだ。誰かがハンバーガーを買ってきた。72年だった。あのバーガーの味は覚えている。2日間ほど路上に寝たが、バーガーはうまかった。その後バーガーキングの「直火焼きのバーガー」がやってきた。革命的だったと思う。「予算はないが、知恵はある。どうしたら多くの人にバーガーキングを知ってもらえるか」。王者マックに対してリスペクトがある。でも勝ちたい。決してあきらめていない。
<出演者略歴>
野村一裕(のむら・かずひろ)1978年、ハンブルク生まれ。2002年、上智大学卒業後、キリンビール入社。2019年、ビーケージャパンホールディングス入社。2022年、COO就任。2023年、代表取締役社長就任。
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