こんにちは、ライターの少年Bです。
先日、こんな記事を書いたところ、ありがたいことにすごく話題になりました。
インタビューに答えてくださった「七色蕃椒堂」の店主・香川仁志さんは、取材の中でこんなことを言っていました。
「七味唐辛子は、欧米のハーブに近い存在であるべきなんだろうなと思っています」
ハーブといえば、さまざまな料理のスパイスや隠し味としておなじみの存在です。ならば、七味唐辛子も上からふりかけるだけでなく、スパイスや隠し味として使ってみてもいいのでは……?
そこで今回は、辛いものが苦手なライター・少年Bが、唐辛子抜きの七味「風味調合」を使ったオリジナルレシピを考えてみました。
※インタビューは2021年6月に電話で実施、撮影は後日行いました。
「風味調合」って?
「風味調合」とは、唐辛子を抜いた七味唐辛子のこと。「0辛」などと表現する人もいるそうです。山椒のピリピリ感に麻の実の食感、陳皮(みかんの皮)の甘さに、白ごまや青のりの風味を楽しむものです。
とはいえ、わたしには七味の専門知識がないので、前回同様「七色蕃椒堂」の店主・香川仁志さんにお話をうかがうことに。
▲卸売や実店舗などで七味唐辛子を販売する、「七色蕃椒堂」店主の香川さん。半導体エンジニアなどを経て唐辛子屋を開業した、異色の経歴の持ち主
──風味調合を食材として使ってみたいんですが、どういうものに合うでしょうか。
香川さん(以下、敬称略):おもしろいことを考えるね。でも、「風味調合」と言っても、「こうじゃなきゃいけない」なんて決まりはないんだから、用途や料理ごとに配合を変えればいいんだよ。
──なるほど、どのような料理にするかを考えてから、それに合わせた風味調合を作ればいいと。
香川:そうですよ、七味唐辛子ってのはお客さんに合わせて辛さや好みを変えられるんだから。せっかくだし、材料を販売してあげるので自分で調合してみたら? どういう料理に使いたいの?
──風味調合は辛くないので、甘味のスパイスとして使ってみようかなと思っているんです。風味調合だったら甘いものにも合いますか?
香川:えっ、甘いものと組み合わせるの!? いやいや、考えたこともなかったなぁ。
──組み合わせるときのコツや注意点はありますか?
香川:うーん、甘いものに使うとなると……。試したことがないから、はっきりとは言えないんだけど、特にうちで使っている和歌山県・有田川産の「ぶどう山椒」なんかはかなり風味が強いから、使うときは控えめにしたほうがいいと思うよ。
▲香り高いぶどう山椒
香川:あとは青のりはちょっと塩気があるので、入れすぎるとしょっぱくなっちゃう。白ごまも油分が多くて香りが強いから、控えめにしておいたほうがいいかな。
──バランスが大事なんですね。
香川:そうそう。逆に陳皮は甘いから、少し多めに入れても大丈夫かな。わたしもそんな使いかたをしたことはないけど、メニューを教えてもらえれば一緒に考えてみますよ。
なんとありがたい……それでは、香川さんにアドバイスをいただきながら、さっそくレシピを考えていきましょう!
作るのは「アイスクリーム」「クッキー」「コンポート」そして「クラフトコーラ」の4種類です!
風味アイスクリーム
香川:バニラアイスなら、柚子を軸にするといいんじゃないかな? うちでは作ってないけど、「柚子山椒」って調味料もあるくらいだからね。
柚子とぶどう山椒を3:1ぐらいで混ぜるとおいしくなると思うよ。ちょっとレモンみたいな風味になって。
──えっ、レモンですか!? いったいなぜ……?
香川:柚子も山椒もかんきつ類だから、合わせることでちょっとレモンに似た感じになるんじゃないな。
──白ごまや青のりも、アイスとの相性はよさそうです。
香川:そうだね、あとは麻の実も食感がおもしろいから入れてもいいと思うよ。割合を変えてやってみてごらん。
ということで、香川さんのアドバイスをもとに作った「風味アイスクリーム」がこちら。
材料
- バニラアイス 200ml
(A)
- 柚子 小さじ1
- 陳皮 小さじ2/3
- ぶどう山椒 小さじ1/3
- 青のり 小さじ1/3
- 白ごま 小さじ1/3
- 麻の実 小さじ1/3
作り方
バニラアイスは100円程度でお手軽に買えるものを選びました。
Aの材料をスプーンでかき混ぜたら、すこし溶かしたバニラアイスに練り込んで、30分ほど冷凍庫に入れて完成!
多めに入れた柚子が香り、青のりの塩気が甘さを引き立てています。白ごまの濃厚さと、鼻に抜けるぶどう山椒の風味が磯の香りを和らげて、ただただおいしさだけが格段にアップ!
ほんのり舌の上に残る苦みも、香川さんの言う通りレモンっぽい味がしました。
また、特筆すべきは麻の実の食感。本来はカリッとした歯ごたえが持ち味ですが、アイスの水分を含んだことでプチっとした食感に変化。やわらかなアイスの食感に変化をもたらしていました。楽しい!
風味クッキー
──次はぶどう山椒を活かしたクッキーを作ってみたいんですが、どうしたらいいでしょう。
香川:柚子と陳皮は間違いなく合うだろうけど、それだとちょっと普通すぎておもしろくないよね。白ごまと麻の実、それにケシの実を合わせてみたらどうだろう。
──ケシの実ですか?
香川:そう。よそだと基本調合に入っているところもあるね。うちではあんまり使わないけど、「麻の実の食感が嫌だ」ってお客さん向けに、麻の実の代わりに入れることがあるんですよ。
──ケシの実の特徴はどんな感じですか?
香川:いちばんわかりやすいのは「アンパンの上にのっているやつ」って説明だね。小粒ながらプチプチとした食感と、ナッツにも似た香りが特徴なの。クセがないから、ぶどう山椒や青のりより多めに入れても問題ないと思うよ。
香川さんのアドバイスを受け、試行錯誤を繰り返してできた「風味クッキー」がこちら。
材料
- オリーブオイル 17ml(大さじ1と小さじ1/2程度)
- 薄力粉 50g
- グラニュー糖 5g
- 塩 小さじ1/8
- ベーキングパウダー 小さじ1/8
- 白ごま 小さじ1/4
- 麻の実 小さじ1/4
- ケシの実 小さじ1/4
- ぶどう山椒 小さじ1/8
- 青のり 小さじ1/8
作り方
オリーブオイル以外の材料をボウルに入れて、さっとかき混ぜます。
材料が混ざりきったらオリーブオイルを加え、手でこねてひとまとめにします。
生地を取り出したら、四角い棒状にしてラップで包み、30分ほど冷蔵庫で寝かせます。
そのあと型で抜きますが、 今回のように型がない場合も、包丁で3mm厚に切ればOK!
クッキングシートを敷いた天板の上に並べ、160度のオーブンで20分焼けば完成!
甘じょっぱい、しっとりとした食感のクッキーのできあがりです。
ケシの実のプチッとした食感と麻の実の歯ごたえが楽しく、白ごまの香ばしさの後にぶどう山椒の風味と、青のりの磯の香りが鼻から抜けます。
そんなに甘くないので、おつまみにもいいかもしれません。飽きずに食べられるクッキーです!
風味コンポート
香川:次はコンポートか。またずいぶんと変わったメニューに挑戦するね。
──コンポートもシナモンやナツメグなどを使うので、和風のスパイスで作ってみたらどうだろうと思ったんです。
香川:そうだね、うーん……。油が出る白ごまや麻の実は避けて、やっぱり柚子とぶどう山椒を合わせるのがいいのかな。
──柚子とぶどう山椒の割合は、やっぱり3:1ですか?
香川:そうだね。ぶどう山椒は入れすぎると舌がしびれちゃうし、特に香りが強いから、それぐらいにしておいたほうがいいと思うよ。
──ほかに入れるとしたらどうでしょうか。
香川:青のりはちょっと合わないだろうね。陳皮も合うだろうけど、フルーツが甘いからどうだろうね。入れるとしたら、柚子3:ぶどう山椒1:陳皮1ぐらいの割合がいい気がするなぁ。
ということでいろいろ試してみたのですが……。なんと、香川さんのイメージしたレシピが最もおいしいという結果になりました。さすが七味のプロ、すごい……!
材料
- パイナップル 300g ※缶詰でもOK
- りんご 1個
- レーズン 30g
(A)
- 砂糖 60g
- 水 300ml
- 白ワイン 200ml
(B)
- 柚子 小さじ1
- ぶどう山椒 小さじ1/3
- 陳皮 小さじ1/3
作り方
パイナップルは一口大に切ります。カットパインならそのままでもOK。
りんごは8つ切り以上にして、皮と芯を取ります。
Bの材料はよく混ぜておきましょう。
鍋にAを入れてひと煮立ち。その後りんごを入れて20分程度、弱火でコトコト煮ます。
りんごが透き通ってきたら火から下ろし粗熱を取り、レーズンとパイナップルとBを入れ、冷蔵庫で1時間程度冷やします。
▲冷やす際に調理用のポリ袋を使うとしっかり浸かっていい感じです
こうして完成したコンポート。
ぶどう山椒のほろ苦さと、舌の上にかすかに残るしびれが、逆にフルーツの甘さとおいしさをしっかり引き立ててくれます。
また、ぶどう山椒に加えて柚子の香りがふっと鼻に抜け、嗅覚も楽しい一品になりました。
風味クラフトコーラ
──最近はクラフトコーラが流行っていて、『メシ通』でも以前記事になりました。山椒を生かして、コーラを作れないでしょうか。
香川:なるほど……。それじゃあ特別に、秘密の材料を分けてあげましょう。
──秘密の材料? いったい何ですか?
香川:ショウガパウダーです。
──ショウガパウダー!?
香川:そう。今も柚子やにんにく入りの七味を売っているけど、あたらしい七味を考えたくてね。まだ試作中で、自分としては納得できてないからメニューには載せてないんだけど、「それでも食べてみたい」って常連さんには裏メニューとして販売してるんです。
▲こちらの黄色いのがショウガパウダー。舐めてみると猛烈に辛い
香川:この前お客さんが「鍋に入れる鶏つくねを作る時に、ショウガ入りの風味調合を混ぜたら鶏の臭みが消えておいしかった」って言ってましたね。
──それもおいしそう……ショウガを軸にするといいんでしょうか?
香川:ダメダメ! これはものすごく辛いから、ぶどう山椒と同じく少しにしておいたほうがいいと思うよ。ベースになるのは……やっぱり柚子か陳皮だね。正直、コーラとはまったく別物になると思うけど、柑橘とショウガの炭酸ならおいしくなるんじゃない?
というわけで、コーラ(?)の材料と作り方はこちら。
材料
- 水 400ml
- 三温糖 400g
- バニラエッセンス 5~6滴
- レモン汁 15ml
(A)
- 柚子 3g
- 陳皮 2g
- ぶどう山椒 1g
- ショウガパウダー 1g
作り方
まずは鍋に水と三温糖を溶かし入れます(400gの三温糖の量の多さときたら。ちょっとドキドキしてしまいますね……!)。
Aの材料は混ぜたらお茶パックに詰めて、一緒に鍋に入れます。
▲お茶パックに入れると、顆粒でも簡単に煮出すことができます
沸騰したら弱めの中火にして煮出します。10分ほどで火を止め、粗熱を取りましょう。
冷めてきたらバニラエッセンスとレモン汁を加え、冷蔵庫に移して1日程度寝かせ、味をなじませます。
こうして、和の香りのするコーラシロップが完成しました!
完成したコーラシロップは、炭酸水(分量外)で割って飲みましょう。個人的にはシロップ1:炭酸水5の割合が最もおいしいと感じましたが、そのあたりはお好みで。鮮やかな金色の見た目は、コーラというよりジンジャーエールのようです。
▲本物のコーラ(左)と比べてみるとこんな感じ。色はぜんぜん違いますね
さて、いざ飲んでみると、やはりコーラとは似ても似つかない別物……ではあるのですが、これがかなりウマイ!
三温糖の穏やかな甘さに、柚子と陳皮のさわやかな甘さと、ショウガのピリッとした辛さが加わり、ぶどう山椒の風味が香ります。本家コーラほどのパンチはありませんが、穏やかで滋味深く、複雑な味わいです。
そして、飲んだ後には喉の奥からじわーっと熱くなってくるような感覚になりました。
七味唐辛子とは「自由なスパイス」だ
辛いものが苦手なため、30年以上七味唐辛子を敬遠して生きてきたのですが、前回香川さんにお話をうかがい「風味調合」を知ってからというもの、七味が少し身近になりました。
そして今回学んだのが、「風味調合はもっと自由でいいのだ」ということ。さまざまな材料を混ぜ合わせて、自分の好みや、食材に合わせてカスタムできる。7種にこだわる必要も、「こうするべき」という決まりもない、自由なスパイス。それが七味唐辛子なんですね。
辛いものが苦手でも大丈夫。ふりかけてもいいし、時には料理のスパイスにも使える。そんな七味唐辛子の世界に、みなさんも足を踏み入れてみてはいかがでしょう。
▲香川さんのようにうまくはできなかったけど、自分で混ぜてみるのも楽しかったです
お店情報
七色蕃椒堂 北越谷店
住所:埼玉県越谷市花田1丁目34-2 「お好み焼きけい」敷地内
電話:080-7238-5164
営業時間:10:00~19:00(土・日・祝のみの営業)
七色蕃椒堂 川越・小江戸店
住所:川越市連雀町17-1 川越熊野神社境内
電話:080-7238-5164
営業時間:11:00~18:00(土・日・祝のみの営業)
書いた人:少年B
食べることが大好きなフリーライター。「高カロリーなものを食す罪悪感をあらゆる屁理屈で肯定する宗教」セーフ教の教祖をしています。お腹がすくと凶暴になり、満腹になると眠くなる機能を搭載。
からの記事と詳細 ( 辛い食べ物NGなライターが「辛くない七味」を専門家に注文して「風味調合」の可能性を探ってみた - メシ通 )
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