「楽観論者はドーナツを見て,悲観論者はドーナツの穴を見る」
(The optimist sees the donut, the pessimist sees the hole)
「サロメ」(壱百満天原じゃないほう)などで知られる作家,オスカー・ワイルドはこう述べました。まあドーナツの穴は単なる穴なので,ドーナツを見ること自体には楽観も悲観も別段ありませんが(自然主義)。無いものは逆さに振っても出ないので,何とは言わないものの「そこに無ければ無いですね」ってなもんです。何かが無かったとしても無いときは仕方ないんです(淀んだ眼で)。
それはさておきドーナツと言えば,2023年1月19日に国内向けNintendo Switch版が発売されて以降,レトロゲーマーの間で評判となっているのがルクセンブルクのpixel.gamesが開発した“レトロ風”ゲーム「ドーナツ・ドド」(Donut Dodo)です。そんなわけで今回は,ここ1年ぐらいでリリースされたレトロ風ゲームのミニ特集でやっていきましょう。
ドーナツ・ドド
「ドーナツ・ドド」は固定画面型のアクションゲームで,ステージ内の小さいドーナツをすべて回収し,ドードーの持っている巨大ドーナツに触れるとクリアとなります。おおよそ「パックマン」と「ドンキーコング」を組み合わせたゲームデザインですね。1980年前後にリリースされた名作のエッセンスが詰め込まれていて,かつ難度も相応の高さですが,ジャンプの挙動は今風にするなど,操作の快適性は考慮されています。バランス良く「クラシカルなのにモダン」というスタイルが実現されていて,非常に手触りの良いゲームです。
本作が最初にリリースされたのは2022年6月3日で,プラットフォームはSteamの他,本連載でも過去に取り上げたAtariによるゲーム向けLinux PC「Atari VCS」と,レトロゲーム&インディーズゲームに特化した家庭用ゲーム機「iiRcade」(大雑把に言えば,Arcade 1UPとOUYAが融合したようなもの)の3種類でした。しょっぱなから「俺はレトロ風ゲームを全力でやるんだよ!」という姿勢の前のめりっぷりが感じられますね。
なお4Gamer誌上で言及するのは本稿が初となるiiRcadeですが,「ストームブレード」「野球格闘リーグマン」「セカンドアース グラティア」といった家庭用移植されていないタイトル(の海外版)が提供されているので,筆者は買うかどうかめっちゃ悩んでいます。うーん599.99ドル+国際送料……。
さらに4月5日には,イギリス発のレトロゲーム特化型ゲーム機「Evercade VS」(据置機)および「Evercade EXP」(携帯機)でも,期間限定の無料コンテンツとして配信が開始されました。現行のレトロゲーム系プラットフォームを総ナメです。レトロ風ゲームの市場展開として,こういった形で注力したものは過去に見たことがないので,その手際に軽くビビります。
ちなみにGoogle Stadiaでのリリース予定もあったそうですが,配信の準備が整った2時間後にStadiaのサービス終了が発表されるという憂き目にあったそうです。ひっで。
After weeks of paperwork and preparations to bring Donut Dodo, Sir Lovelot and Sigi to Stadia, we successfully finalized the onboarding process with Google yesterday.
Two hours later, the news hit that Stadia is shutting down. Sad. @4Scarrs_Gaming #Stadia pic.twitter.com/pLc19oAtu4
— pixel games - Donut Dodo Do! - pre-orders open (@pixelgames) September 30, 2022
リリース時点では「静かな反響」といったところでしたが,じわじわとSteam版が好評を集め,先述の通り日本ではSwitch版の発売から一気に広まりました。とくに本格派8bitテイストながらノリの良いBGMは評価が高く,Bandcampで1曲1ドルから(※任意の金額を設定可能),8曲入りのアルバムは5ドルから購入できます。しかもブラウザ上で聴くだけなら無料なので,ポチッと再生ボタンを押してみましょう。
また,ゲームセンター・秋葉原HeyではexA-Arcadia版である「ドーナツドードードゥ!」のロケテストを実施中です。1980年代のアーケードゲームをオマージュしてアーケード筐体風のiiArcadeに向けてリリースされたゲームが,ついに本物のアーケードへやってきたわけで,その「コンセプトを貫く」ぶりに感服しまくりです。
Ex-Zoidac
レトロ風といってもいろいろな方向性があります。2022年7月21日に発売されたレールシューティングゲーム「Ex-Zodiac」は,“見ての通り”と言えるくらいに「スターフォックス64」をオマージュしたタイトルです。ただし,グラフィックスはスーパーファミコンの初代「スターフォックス」を踏襲していたり,任天堂系よりもPlayStationっぽさのあるポリゴンモリモリの高速スクロールステージがあったり,「スペースハリアー」的なステージがあったりBGMはFM音源をフィーチャーしたりというセガっぽさがあったりもします。
ストレートにニンテンドウ64風でないのは“らしさ”が足りないとも言えますが,これを「もしも幻の“スーパーファミコン用CD-ROMドライブのPlayStation”が実現していたら,こういうゲームがあったのではないか」とか,「だとするとBGMがFM音源で鳴らされているのは,CDの音源をボイスで使うからだろう」とか思ってプレイしてみると味わい深かったりもします。
まあ“過去に無かったハード”について考えると,「メガドラが! もうちょっとアレが良かったりして,メガCDとの組み合わせでこういうゲームができていたら! メガドラが天下を取っていたのに!!」と悶え転がるかもしれませんが。
連海カジノ
2022年9月30日に致意からリリースされた「連海カジノ」は,PC-98風グラフィックスを特徴とするアドベンチャーゲーム。本作は致意が過去にリリースしたビジュアルノベルの主人公達がクロスオーバーするスピンオフとなっているのですが,“PC-98風”というところから本作に興味を持った筆者は,一度クリアしてからそれを知りました。例えるなら「ザ・キング・オブ・ファイターズ '94」で,ルガールを倒してから「怒」や「サイコソルジャー」などを知った感じです。旧作には邦訳されているものもあるので,後々プレイしてみようと思っていますが,もしかすると「アメリカンスポーツチームも元になったゲームが……無いの!?」的な驚きに見舞われるかもしれません。
本作は裏社会に通じるカジノ船で,各種ギャンブルを通して負債を返済しつつ,ヒロインとの交流を通してシナリオを進めていくというもの。要するに「賭博黙示録カイジ」のエスポワール号をオマージュした設定で,Eカード風のギャンブル(ゲーム内での名称はK/Sカード)もプレイ可能です。まあ,K/Sカードは狙って勝つのが難しいので,筆者は稼ぎの大半をHit&Blowで得ていましたが。
ゲーム的にはギャンブルパートとADVパートが噛み合っておらず,「これ単品でどうこうというものではなく,あくまでシリーズのおまけ的な立ち位置なのだろう」という雰囲気ながら,収録されているギャンブルのバリエーションと骨のあるストーリーはなかなかのもの。偶発的なものだとは思いますが,このように設計がゆるめだったり,力の入れ具合が局所的だったりするところも,昔の低価格PCゲームやディスクマガジン付録ゲームのような味があり「こういうのでいいんだよ。こういうので」と思わされます。
Melon Journey: Bittersweet Memories
PC版が4月7日に発売されたばかり(関連記事)の「Melon Journey: Bittersweet Memories」は,ゲームボーイ的なグラフィックスをフィーチャーしたRPG。ゲームボーイの緑がかった液晶画面をメロンに紐づけたのは,だいぶ面白い着眼点です。
まあ,筆者はNintendo Switch版を買って,序盤だけチョロっとやって,まだストーリーも何もよく分かっていない状態なのですが……。ホラ,RPGってプレイするのに時間がかかるし……。
なぜ買ったのかと言えば,国内向けの限定版には,前日譚である「メロンジャーニー1 レトロカートリッジ」が同梱されているからです。要するに「ゲームボーイおよび互換機で動作するソフト」ですね。
カートリッジ自体はLimited Run Gamesでも販売されていましたし,“ゲームボーイおよび互換機”向けのソフトはゲームインパクトさんなどが販売していたりもしますが,特典にしろ“国内一般流通”という形でリリースされたのは初ではないでしょうか? 市場をすべて把握しているわけではないので,もしかすると先人がいるのかもしれませんが,それはそれとして「そんなんコレクターだったら買うしかないやろ!」です。
「ドーナツ・ドド」や「メロンジャーニー1」のように,昨今はオマージュ的に開発されたものが“一種の本物”になり得る状況となっています。ROMを焼く必要のあるカートリッジはハードルが高めですが,シューティングゲームのコンストラクションソフトが発売された「X68000 Z」や,幅広い展開が予定されている「MSX3」(およびファミリーの「MSX0」など)といった“過去に無かったハード”は,普及が進めばレトロ風ゲームに適したプラットフォームとなるのではないでしょうか。
筆者的には,“気軽に遊べるけど尖っている”といった具合の「こういうのでいいんだよ」なゲームが増えると嬉しいところです。
そう。そして来る……。
ハードとソフトが相乗効果を起こし,ネオTAKERUの時代が……!
からの記事と詳細 ( レトロンバーガー Order 90:「ドーナツ・ドド」は“レトロ風”である以上にiiRcadeやEvercadなどを経てACに進出する ... - 4Gamer.net )
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