自宅まで弁当や冷凍食品を届けてくれる宅食サービスは、自炊をする余裕がないものの毎日外食するのは厳しいという家庭にとって非常にありがたいものです。アメリカには連邦政府と州政府が共同で行うメディケイドという医療扶助事業があり、病気の患者に宅食サービスを提供する一部の企業には扶助費が支払われています。ところが、アメリカの宅食サービスには「栄養士の承認を受けている」とアピールしているにもかかわらず、塩分や脂肪分が多い不健康な食事を届けているものがあると、医療系ニュースメディアのSTATが報じています。
Food is medicine: Medicaid contractors delivering salty, fatty foods | STAT
https://www.statnews.com/2024/07/11/medicaid-food-is-medicine-medically-tailored-meals-quality-questioned/
アイダホ州に本社を置くHomestyle Directはアメリカ全土で年間780万食を配達する宅食サービス企業であり、その中にはがんや糖尿病を患っている人向けのメニューや、「心臓や腎臓などに優しい」とうたうメニューなども含まれています。Homestyle Directはこれらのメニューを「medically tailored meals(MTM:医療用調整食)」と呼び、税金が財源となっているメディケイドから多額の医療扶助費を受け取っているとのこと。
しかし、複数の栄養専門家がSTATに語ったところによると、Homestyle Directが提供する食事の多くは、食生活に関連する疾患を患う人の健康増進に役立つMTMとはかけ離れたものだそうです。タフツ大学の食品医学研究所所長を務めるダリウシュ・モザファリアン氏は、「私にとってHomestyle DirectはまったくMTMに見えないどころか、一般的に健康な食事だとすら思えません」と指摘しています。
MTMはもともと1980年代にエイズ患者のための食事として開発されたもので、その後がんや糖尿病、心血管疾患などの慢性疾患を持つ人々にも対象が拡大されました。MTMに関する普遍的に受け入れられた定義は存在していませんが、一般的にほとんどの栄養専門家は「ナトリウムや砂糖、飽和脂肪酸といった特定の成分が少ない」「食物繊維などの成分が多い」といったものが、健康的な食事において重要だと考えています。
しかし、Homestyle Directのメニューはこれらの要件を大きく外れたものが多いとSTATは指摘。たとえば、糖尿病患者向けメニューとして提供されている「ジミー・ディーン朝食サンドイッチ」には980mgものナトリウムが含まれ、がん・糖尿病患者向けの「ビスケットとソーセージグレイビー」には成人1日分の半量にあたるナトリウムと飽和脂肪酸が含まれているとのこと。なお、アメリカ心臓協会は成人の1日のナトリウム摂取量を2300mg以下、理想的には1500mg以下にすることを推奨しており、Homestyle Directのメニューは1食あたりの推奨摂取量を上回っています。また、がん・糖尿病・心臓および腎臓疾患の人向けとされる「チーズバーガー」には約50もの材料が含まれており、これはさまざまな疾患に関連しているとされる超加工食品に該当するとSTATは指摘しました。
MTMをうたった宅食サービスを展開しながら実際には不健康なメニューを提供している企業は、Homestyle Directだけではありません。STATは、Magic KitchenやMom’s Mealsといったその他の宅食サービス企業も、メディケイドのプログラムで不健康なメニューを提供していると指摘しています。
そもそもHomestyle Directは1997年に事業を開始した当初、「忙しい生活をしている人のための宅食サービス」をうたっており、健康面をアピールしてはいませんでした。その後、2009年には6つの州でメディケイドの医療扶助費を受け取るようになり、2018年までにその数は18州に膨れ上がりましたが、MTMをうたうようになったのは2023年のことだそうです。
近年のアメリカでは食事による健康改善が流行しており、いくつかの非営利団体はMTM向けの認定プログラムを発表しました。しかし、Homestyle Directのメニューはこれらの認定プログラムの基準に達しておらず、特にナトリウムの多さや食物繊維の少なさなどが問題だとのこと。食物繊維は心臓の健康と相関関係があるほか、特定のがんやその他の全死因死亡リスクを下げるともいわれています。STATの分析によると、Homestyle Directの「心臓に優しいメニュー」には1食あたり平均5gの食物繊維が含まれていますが、これはMTMの認定基準である1食あたり8~9gを下回っています。
モザファリアン氏は、「実際にはそうではないのに、自分たちの食事をMTMとして再ブランド化しようとする多くの企業があります。これは問題です。これはMTMを推進する運動を傷つけます。さらに問題なのは、これが患者を傷つけるということです」と警鐘を鳴らしました。
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