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Tuesday, December 8, 2020

「大豆肉バーガー」は流行るか? 植物肉ベンチャーDAIZに聞く「種から肉を作る」技術:フードテック最前線 - BUSINESS INSIDER JAPAN

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フレッシュネスバーガーのTHE GOOD BURGERアボガド(左)とてりやき(右)。

撮影:三ツ村崇志

バンズに挟まれたアボガドとお肉に、タルタルソースが絡み合うボリューミーなハンバーガー。

11月、ハンバーガーチェーン・フレッシュネスバーガーの新製品発表で試食した「THE GOOD BURGERアボガド」は、「大豆ミート(植物肉)」を使っている事実を気にさせないほど、バーガーとしての完成度が高かった。販売価格は550円(税別)。フレッシュネスバーガーの定番商品「フレッシュネスバーガー」が420円(税込)で販売されていることを考えると、十分「アリ」な価格設定だ。

2020年に入ってからというもの、国内の外食産業や食品メーカーの間で、代替肉(植物肉、フェイクミート)を使った新製品の発表が相次いでいる。

フレッシュネスバーガーの「THE GOOD BURGER」に採用される植物肉「ミラクルミート」を開発・製造しているのが植物肉スタートアップのDAIZ(ダイズ)だ。

大豆由来の植物肉はこれまでにもあったが、DAIZは「発芽大豆」を使うところに、大きな違いがあるという。ミラクルミートの技術や、ほかの植物肉との違いなどについて、DAIZ創業者の井出剛社長と、最高技術責任者(CTO)の落合孝次氏を直撃した。

農家との関係も「持続可能な」植物肉の実現

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井出剛CEO(右)と落合孝次CTO(左)。

提供:DAIZ

—— 「植物肉」を手がけることになったきっかけは?

井出剛CEO(以下、井出):私は、熊本県にある耕作放棄地を中心に、日本最大規模の有機栽培ベビーリーフを生産している「果実堂」という会社をやっていました。最近、「SDGs(持続可能な開発目標)」という言葉が盛んですが、熊本県にある水俣市では、過去に深刻な公害汚染(1950年代に発生した水俣病)が起き、それ以来、森林や河川の再生、傷んだ心を治すなど、いろいろな取り組みをしてきました。水俣の町では何十年も前からSDGs(的なこと)に取り組んでいたんです。その考え方の延長で誕生したのが「DAIZ」でした。

地球上の耕作可能地は、3分の2が家畜の飼料を作るために使われています。そして、家畜も温室効果ガスを生み出していることなどが知られています。(地球環境を守るために)畜産量を制限しよう、増え続ける世界の人口分の食糧を確保するために、飼料用の農地を野菜などの食料用の農地にしようといった運動が真剣に行われています。

欧州では、そういった経緯から植物肉が作られるようになりました。それが、我々としては衝撃でした。

── そこで、自ら植物肉を開発しようと考えたと。

井出:海外でも日本でも植物肉は既に存在しますが、大手オイル企業が作っているものは、「搾って油を取った後の大豆(脱脂大豆)を原材料」にしているため、栄養価がほとんどありません。それを植物肉の原材料として出すことに、合点がいきませんでした。

だから我々は、農家から大豆を仕入れて、その大豆に独自の手法によって付加価値を与えてから植物肉として提供しています。こうすれば、大豆農家への発注量も増え、農家との関係性も「持続可能」なものになります。

これこそが、SDGsだろうと。

大豆をさまざまな条件で発芽させることでうま味成分をコントロール

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海外のスーパー店頭でごく普通に販売されているインポッシブルフーズの植物肉。大手バーガーチェーンで植物肉を使ったバーガーの販売も数年前から始まっている。

Shutterstock/Sheila Fitzgerald

── アメリカではインポッシブルバーガーを展開するインポッシブルフーズなどが有名ですが、そういった先行企業と、DAIZが扱う植物肉の違いは?

落合孝次CTO(以下、落合):一般的な植物肉は「脱脂大豆」を原料にしています。油を絞る際に、いっしょに栄養素も失われてしまうため、その分、タンパク質を補ったり、肉っぽさを出したりするために、さまざまなものを加えているようです。

一方、DAIZでは、発芽させた大豆を原料にしている点が大きな特徴です。

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発芽大豆。この状態になると、それまで休眠状態だった種の内部でタンパク質が分解され、うま味成分であるアミノ酸などの成分が増加する。

提供:DAIZ

発芽させると、大豆が「穀物」から「植物」になります。

大豆はもともとタンパクや油が豊富なのですが、水を吸って芽を出すと、酵素のはたらきによってタンパク質が分解され、美味しさの素であるアミノ酸や、ビタミン、糖類などの栄養素が増えるんです。

── 同じ大豆を原料としていても、発芽させるだけで成分が大分違う。

落合:発芽させた大豆を分析すると、うま味成分やビタミンなどが、肉の成分とそっくりになっています。

発芽自体は誰でもできることですが、その際に酸素濃度や二酸化炭素濃度、温度、そして水の量という4つのパラメーターを調節することで、鶏肉や牛肉など、それぞれの肉の成分に似た発芽大豆ができます。これが技術の核である「落合ハイプレッシャー法」です。

味に関係するアミノ酸は18種類。もっと細かい成分は700種類くらいあります。それを一斉に分析して肉と比較しながら発芽のパラメーターを変えて、求める肉の成分に近付けていく。こうすることで、余計な添加物を入れる必要がなくなるんです。

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発芽大豆を素材に作られたミラクルミート。

提供:DAIZ

── 成分が肉に近くなったとしても、食感はどうしても限界があるのでは?

落合:食感については、製造工程の中で発芽大豆を混ぜてドロドロのペーストにしたあと、それを膨張させることで、肉に似た線維を作っています。

この技術は、セオリーとしてタンパク質が50%以上含まれている材料にしか使えないものでした。

ただ、発芽大豆のタンパク質量は18%程度、肉の場合は16%程度。さらに脂肪は発芽大豆だと9%で、肉の場合は12%程度とよく似ていました。やりようによっては、肉の繊維のようになるのでは、とダメ元で試してみたところ、うまくいった。

発芽大豆を混ぜる際の回転数や圧力、温度、投入量などの条件を変えれば、さらに食感を調整することが可能です。スルメみたいに固い植物肉もできるし、ポップコーンのように柔らかいものも作れます。

種のブレンドで最適な植物肉を

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植物肉の材料に使われるケースが多いのは、大豆から油を抽出した「脱脂大豆」だ。DAIZはもちろん、他の植物肉メーカーも、大豆以外の種を用いた植物肉の研究開発を進めている。

提供:DAIZ

── 植物肉は今、期待を集めているフードテック分野の1つです。今後は、どういった製品を開発する予定でしょうか?

落合:大豆以外にも穀物はたくさんあります。種であれば、発芽させて成分をコントロールしたり、ペースト状にしてからブレンドしたりすることができます。種ごとに、発芽させたときのアミノ酸組成の違いが分かってきています。

今は、発芽させた種の味の成分のデータをため込み、「どの種とどの種を、どのくらい組み合わせると鶏肉みたいな味に近付く」といったことを分析しています。

単に「鶏肉」に近くなる、という話ではなく、鶏むね肉やもも肉、ゆでた肉や焼いた肉といった細かい違いまで、700種類くらいある成分データについて分析しています。

──とはいえ、100%植物肉で実際の肉に近づけるには限界もあるのでは?

落合:できれば何も足さずにやりたいのですが、もちろん限界はあります。

ですが、そこは「味付け」というもう1つの技術もある。日本には味付けが得意な企業はありますし、海外でもジボダン(スイスの香料メーカー)などそういった企業とコラボレーションしていくことも今後大事になってくると思います。

また、例えば「牛脂を1滴入れていいですよ」というようになれば、だいぶ楽になります。「ハーフ&ハーフ」という考え方ですね。

肉を半分、(DAIZの)ミラクルミートを半分入れると、変なつなぎや香料、脂を添加しなくても植物肉の限界を超えることができると思います。

米国では既に植物性タンパクが一定の市民権を獲得

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撮影:三田理紗子

── 植物肉の開発に当たって、海外の動きは日本に比べて進んでいると言われます。実際どうなのでしょうか?

井出:アメリカではものすごい勢いで植物肉が進出しています。日本だと「バーガーキングに100%植物肉パテが採用された」といった海外ニュースが注目されがちですが、アメリカでは牛肉や豚肉、鶏肉と植物肉を混ぜたものが既に市民生活に入りこんでいます。

スーパーで鶏肉にするか豚肉にするか植物肉にするか、それとも肉と植物肉が混ざっているものにするかを選ぶ。そのくらい、当たり前に売っているのが衝撃でした。

また、数年前にシアトルで「コストコ」のイベントに出た際にも驚きがありました。

コストコは大量に購入できる庶民的なスーパーで、米国に多くの店舗があります(日本公式サイトによると、北米とプエルトリコで552店舗)。そういう企業がサプライヤーを呼び、社長を交えて1時間、「コストコがSDGsにどう取り組めばよいのか」ということを熱心に討論していたんです。

当時、日本のスーパーチェーンの間では、そういったことは聞いたことがありませんでした。

アメリカでは植物肉を食べている人が必ず「ヴィーガン」というわけではありません。ダイエット目的の人もいれば、少しでもSDGsに参加したい人もいる。安くて健康にもなるなら……と手に取る人も。そんな感じで普及しているようでした。

日本でも知らぬ間に植物肉が……

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ふとコンビニの人気商品の成分を見てみると、下位の方(含有量が少ない)ではあるが、「大豆たん白」の文字があった。好むと好まざるとに関わらず、私たちは既に植物肉(植物性タンパク質)を少なからず口にしているのかもしれない。

撮影:三ツ村崇志

── 国内でも特に2020年に入ってから、植物肉が外食産業に広がっています。DAIZとして、ビジネスの主戦場はどういった領域になると考えますか。

井出:我々はあくまでも原材料メーカーで、優れた食品メーカーに卸していく素材メーカーです。

最後の味付けがすごく大事なので、そういった能力のある企業に最高の素材を卸し、それによっていい植物肉がニチレイフーズなどの食品メーカー、フレッシュネスバーガーなどの外食産業に提供されていく……そういった方々に最後の部分はお任せしていきたいと思っています。

── 植物肉は生活にどうやって入り込んで来るのでしょうか。

井出:冷凍食品や総菜などの食品メーカーの規模が圧倒的に大きいと思います。既に皆さんも植物性タンパク質を食べているはずです。

ハンバーガーチェーンなど、外食産業が消費者の目に付きやすいのですが、(日本でも)肉と植物肉を混ぜた食品が、気づかぬうちに食生活の中に入っていき、知らないうちに人類のタンパク質の危機を救うことにつながっているんです。

(文・安蔵靖志、編集・三ツ村崇志


安蔵靖志:IT・家電ジャーナリスト、AllAbout 家電ガイド。ビジネス・IT系出版社を経てフリーに。記事執筆のほか、テレビやラジオ、新聞、雑誌など多数のメディアに出演。KBCラジオ「キャイ〜ンの家電ソムリエ」に出演中。

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