食後の血糖値が急激に上がりにくい食事「低GI食」は、ダイエットにいいと注目されてきました。しかし、最新の研究では、低GI食を摂ることは「継続的な集中力や記憶力アップにつながる」ということがわかってきました。そこで、脳科学者・西 剛志先生の著書『脳科学者が教える集中力と記憶力を上げる低GI食 脳にいい最強の食事術』から、仕事や勉強の効率を上げる食事術をご紹介します。
文/西 剛志
仕事や勉強で脳のパフォーマンスを維持するなら「低GI食」
仕事をしている方は、長時間の集中力やパフォーマンスを高めるために。学生の方は、記憶力アップで勉強の効率を上げるために。もし大切な場面で自分の能力を十分に発揮したいのであれば、何より脳を快適に活動させることが不可欠です。
そのためには、糖質が少なすぎても、多すぎても、脳は十分に機能できません。「血糖値スパイク」を起こさないように食べることが大切になります。それによって、仕事や学習でも集中力が高まり、ミスが少なくなったり、効率的に作業を行うことができるようになります。また脳内のグリコーゲン量を維持することで、長時間の記憶力が保持できる効果も期待できます。
それでは、血糖値スパイクを起こさないように糖質を摂るにはどうするか?
そこで、私がおすすめするのが、「低GI食」を利用する方法です。GIとは、グリセミック・インデックスの略で、食品を食べた後の血糖値の上昇を示す指標です。ブドウ糖を100として相対的に表しています。数値が100に近いほど食後の血糖値が急激に上がり、低いほど食後の血糖値の上昇がゆるやかになります。
つまり、今日は集中力を上げたい、学習効果を高めたいというときに食事に低GIの食品を上手に取り入れると、血糖値スパイクを起こすことなく、脳に定期的にエネルギーを供給できるようになります。低GI食が脳のパフォーマンスに与える効果は、いろいろな研究によって明らかになってきています。
例えば、12〜14歳の子どもたちを対象とした研究では、高GI(低GIと逆で食後の血糖値が上がりやすいもの)の朝食と比べ、低GIの朝食を摂ったときのほうが、記憶力や注意力などを調べる認知機能テストの結果がよかったという報告があります。49〜71歳を対象とした研究でも、認知テストのスコアが上がることがわかっています。
また、5〜18歳の子どもたちを対象として、朝食の主食の種類と脳の発達との関係を調べた研究によると、パンを食べることが多い人と比べて、パンよりGI値が低いご飯を食べることが多い人のほうが、神経細胞が集まる脳の灰白質(かいはくしつ)という部分が発達していることが明らかになりました。
さらに、ご飯食の人はパン食の人よりも、見て記憶したり判断したりする能力(知覚統合指標)が高く、総合的な知的能力(全検査IQ)も高い傾向にあるという結果も示されています。
脳の1日のパフォーマンスを簡単に向上させたいなら、低GI食がお手軽で最もシンプルな方法のひとつです。
「低GI食」を含むバランスのよい食事が、仕事や勉強の土台になる健康な体をつくる
低GI食は糖尿病のリスクを軽減する
効果的に脳のパフォーマンスを改善してくれる「低GI食」。実は、健康の面でもさまざまな効果が期待できます。これが私が低GI食を生活の中に取り入れている理由のひとつです。
健康を害することは、脳にも負担がかかり、結果さまざまなパフォーマンスの低下につながります。健康は脳が動くときの基盤となっています。ご存じの方も多いかと思いますが、特に低GI食が健康に役立つ有名な例のひとつが、糖尿病のリスクを軽減できることです。
高GI食で「血糖値スパイク」をくり返していると、そのたびに大量のインスリンを分泌しなければならないすい臓が疲れてきます。すい臓が弱ると、やがてインスリンを分泌する力が衰え、ブドウ糖が血液中にあまり、高血糖状態、つまり糖尿病を発症します。しかも怖いことに、糖尿病を発症する約10年前から血糖値スパイクの現象が起きていることも報告されています。
日本人の約2000万人が、糖尿病患者もしくはその予備群といわれていますが、低GI食は、そのリスクを軽減してくれるかもしれないのです。
低G I 食は認知症予防にもつながる
さらに、糖尿病になると、認知症のリスクが高まることもわかっています。認知症の約7割といわれるアルツハイマー型は、脳のゴミといわれるアミロイドβという物質が、脳内に蓄積されることで認知機能が衰えるのではないかと考えられています。
このアミロイドβを除去するために、インスリン分解酵素(IDE)が活躍するのですが、IDEは血糖値スパイクなどでインスリンが大量に分泌されると、インスリンの分解に使われてしまうため、アミロイドβを除去するところまで対応が追いつかなくなってしまうのです。
その結果、アミロイドβが脳に蓄積しやすくなり、アルツハイマーの発症の危険性が高まってしまいます。あるデータによると、糖尿病患者と予備軍は、正常の人と比べて4.6倍も認知症のリスクが高まるといわれています。
そういった意味で、血糖値スパイクを防げば、歳をとっても海馬や大脳皮質の機能をいつまでも健康に維持できるため、私たちの大切な脳を常によい状態に保つことができるようになります。
低GI食で、リバウンド知らずの「食べながらダイエット」
低GI食には、ダイエット効果も期待できることが注目されています。なぜなら、低GI食は摂っても血糖値があまり上がらないため、血液中の余分なエネルギー(ブドウ糖)が脂肪になりにくいからです。
また、やみくもに食事をすると、またすぐに食べたくなるという体験をしたことがあるかもしれませんが、その原因のひとつは、血糖値スパイクによる血糖値の急激な低下によって(血中のエネルギーが不足するため)、脳が「食べろ!」と指令を出すからです。食べても空腹感に襲われて、また食べる。必要以上に糖質を摂れば、さらに太ることになります。
最近はダイエットの手法として糖質制限も人気ですが、極端に糖質をゼロにするようなやり方はデメリットが多いこともわかっています。なぜなら、糖質があまりにも不足すると、その分、脳は筋肉を分解してエネルギーを補おうとするからです。結果として、体全体の筋肉量が少なくなるため、私たちが24時間消費できるカロリー(基礎代謝量)まで減ってしまいます。そのため悲しいことに、その場は短期的に減量できても、太りやすい体質になってしまう、つまりリバウンドをくり返してしまうのです。
そこで役立つのが、低GI食。低GI食は食べる満足度もありながら、血糖値が上がりにくいため、脂肪にも変換されにくく、筋肉も分解されずに健康な体を実現することができます。このように、脳のパフォーマンスだけでなく、体や心の健康にもほどよくいいのが、低GI食です。
低GIと高GIの見分け方
GI値とは、食後の血糖値の上昇度を表す指数です。100に近いほど血糖値が急激に上昇し、低いほど血糖値の上昇がゆるやかになります。
1981年に、カナダのトロント大学のジェンキンス博士らが、同じ糖質量でも食品によって血糖値の上がり方に違いがあることを発見し、提唱しました。このGI値を利用して「血糖値スパイク」を起こさないように脳に糖質を安定供給し、脳がベストパフォーマンスを発揮できるようにするのが、「低GI食」です。
今日は1日パフォーマンスを上げたいというとき、どのようにGI値の高い食品と低い食品を見分ければよいのでしょうか。ポイントは3つ。
低GIと高GIを見分けるポイント
- 甘すぎるものは要注意
- 炭水化物は、白い食べ物より黒い食べ物を選ぶ
- 食物繊維が多いものを選ぶ
これがおおよその見分ける基本になります。甘さは、そのほとんどがブドウ糖に起因しています。当たり前ですが、あまりにも甘いものを食べると、血糖値が急上昇します。砂糖をそのまま原料に使ったお菓子、甘すぎる果物も、それだけたくさんの糖質を含んでいるということになります。
スーパーなどで「糖度〇度」といった広告やチラシを見たことがあるかもしれませんが、糖度とは糖質がどれだけ含まれているかを表す数値です。15度なら、100g 中に15g の糖質が含まれています。
2つ目のポイントは「炭水化物は、白い食べ物より黒い食べ物」を選ぶこと。炭水化物は三大栄養素の1つで、さまざまな食品に含まれています。なかでもたくさん含まれているのが、米やパン、そしてうどん、パスタといった麺類などの穀類。私たちが日常、主食として食べているものです。炭水化物は糖質と食物繊維で構成されていますが、そのほとんどが糖質です。
しかし、含まれている糖質の量が食べ物の色によって異なるのです。例えば、お米なら白米よりも茶色の玄米、白い食パンより茶色のライ麦パン、うどんよりそばのほうがGI値は低くなります。精製されていない色のついた炭水化物は糖の消化吸収をゆるやかにしてくれる食物繊維を多く含むため、血糖値の上昇をゆるやかにしてくれるのです。砂糖も、精製された上白糖より、黒砂糖のほうがGI値は低くなります。
3つ目のポイントは、白米と玄米の違いのように、その食品に食物繊維がどれだけ含まれているか。
糖質がたくさん含まれている果物も、食物繊維が豊富な、例えばりんごやいちごなどは、食物繊維が少ないメロンやスイカよりもGI値が低くなります。GI値の面でみると、フルーツジュースや果物ジャムは糖質が高くなります。使用されているのが果汁のみになると、食物繊維が失われた食品になるからです。食物繊維が豊富とされる野菜の中では、でんぷん質を多く含むじゃがいもや里いもなどのいも類は高GI食品になります。
低GI食品がどんなものか、なんとなくわかっていただけたでしょうか?
もちろん、高GI食品も食べてよいですが、仕事や学習などここぞというときは、低GI食品をうまく使うことが大切です。例えば、肉や魚、乳製品などは糖質がそれほど含まれない低GI食品。積極的に摂りたい食べ物です。ただし、低GI食品だからといって、いくらでも食べていいというわけではないので食べすぎには十分気をつけてください。
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西剛志(にし・たけゆき)
脳科学者(工学博士)、分子生物学者。T&Rセルフイメージデザイン代表。LCA教育研究所顧問。
1975年、宮崎県高千穂生まれ。東京工業大学大学院生命情報専攻修了。2002年に博士号を取得後、知的財産研究所に入所。2003年に特許庁に入庁。大学院非常勤講師を兼任しながら、遺伝子や脳内物質など最先端の仕事を手掛ける。その後、自身の夢をかなえてきたプロセスが心理学と脳科学の原理に基づくことに気づき、2008年に世界的に成功している人たちの脳科学的なノウハウを企業や個人向けに提供する会社を設立。現在は脳科学を生かした子育ての研究も行い、大人から子どもまで、才能を伸ばす個人向けサービスから、幼稚園・保育所の先生、保育士、保護者向けの講演会、分析サービスなどで10000名以上をサポート。横浜を拠点として、全国に活動を広げている。著作に『なぜ、あなたの思っていることはなかなか相手に伝わらないのか?』(アスコム)などがある。
からの記事と詳細 ( 集中力や記憶力がアップし、糖尿病や認知症の予防効果もある「低GI食」とは【脳にいい低GI食】 | サライ.jp|小学館の雑誌『サライ』公式サイト - serai.jp )
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