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Saturday, October 17, 2020

18歳が教師の首を切断するテロ。フランスで何が起きたのか:イスラム教徒との共生社会のために(今井佐緒里) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース

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10月16日(土)、フランス・パリ近郊の町、コンフランサントノリーヌの路上で、中学校の男性教師が男に首を切断されるという事件が起きた。

一体何が起きたのだろうか。

反テロリストの検事、ジャン=フランソワ・リカール氏が、10月17日(土)の午後に現地で記者会見を開いて、事件を説明した。

「事件の重大さと影響の大きさを考えると、一刻も早く説明したかった」という。

このことをよくまとめている『20minutes』の記事から、何が起きたかを解説したいと思う。

大前提として、欧州でイスラム教徒コミュニティが最も大きいのはフランスである(ちなみにユダヤ教徒も同様である)。大事件が起きるときばかり日本で取り上げられるが、普段は共生して暮らしていることを強調しておきたい。

教師が使った「預言者モハメット」の風刺画とは、2015年1月に起きた「シャルリー・エブド襲撃事件」の発端となったものだと言われている。

その日何が起きたのか

10月17日(金)の午後5時11分、公道で遺体が発見されて、国の警察が市町村警察から呼び出された(注:フランスには市町村の警察と、国の警察がある。もし観光客が旅行中に何かを盗まれたら、国の警察に届ける)。

拳銃を持った男が、すぐに加害者と認定された。「国家警察官によると、その男は警官たちの方向に走ってきて、拳銃を5発発射した」という。 3人の警官が応戦した。地面で加害者は起き上がって警官を刺そうとしたが、彼は無力化されていた。「彼の体には9つの銃弾の穴がある」ということだ。

容疑者は何者か

初期の調査によると、容疑者は「2002年にモスクワで生まれ、ロシア国籍でチェチェン出身」の個人だという。

アブドラフ・アブイエズヴィチ(Abdoullakh Abouyezidvitch)は、昨年3月の初めに発行された10年滞在許可証を持っていた。

彼はエヴルー(Evreux)に住んでいて、諜報機関には記録されていないという。「故意の暴力と損害」で罪を認められたことがあるが、当時未成年だったために、刑罰を受けたことはない。

この10日間、何があったのか

10月5日(月)、地理歴史の中学教師であるサミュエル・パティ氏は、「表現の自由に関する授業」の一環として。預言者モハメッドの2つのイラスト(風刺画)を見せた。これが暗殺につながった。

授業があった日の夕方、娘に言われたある親が、このようなことが学校であったと報告する動画を公開して、教師の除名を求めるデモを呼びかけた。

3日後の8日(木)、ある父親ともう一人の男が、中学校の校長に会いに行った。「彼女(注:校長は女性)は事態を落ち着かせようとしたが、2人は動員(mobilisation)の罰則のかどで、教師の解雇を要求した」とリカール検事は述べた。

同夜、父親は新たなビデオを公開した。そこでは、教師の名前を挙げ、中学の住所を言い、「やめろと言うための」デモを促していた。

さらに3日後の11日(日)、父親は娘を連れて警察署に行き、ポルノ画像(注:風刺画のこと)を配布したとして被害届を提出した。

翌12日(月)、教師からの聞き取り調査が行われた。教師はどのような内容だったかを報告し、そのコピーを渡した。

検事によると「彼はイスラム教徒の生徒に、教室から出て行けとは言わなかった。ただ、気分を害する可能性のある生徒には見ないようにと提案するように気を配っていた 」という。同日、教師は名誉毀損の被害届を提出した。

リカール検事は、13日(火)にYoutubeに投稿された父親と娘が映っている最新の動画についても説明した。

動画には、父親に同行して校長に会いに行った男性も映っていた。この男は、エマニュエル・マクロンがイスラム教徒への憎悪をあおっていると非難し、学校前でのデモを呼びかけていたのだ。さらに、前のビデオの放送後に、学校で多数の脅迫電話を受けたと主張した。

そして事件のあった金曜日の朝、容疑者は、校門前で生徒たちに先生を的にするようにと訴えていたという。

「イスラム国」参加者

現在、9人が身柄を拘束されているという。

4人は容疑者の直系の家族で、他の2人は金曜の夜遅くに姿を現し、事件の少し前に容疑者と連絡を取っていたと述べた。

また、12日の動画に出演していた、父親と一緒に学校に行った男と、彼の女性同伴者もいる。

事件の翌朝には、被害届を出した父親も尋問を受けた。

「特筆すべきは、この男性の異母姉(妹)が、2014年10月にシリアでイスラム国機構に入隊していたことだ」。検事は「彼女は反テロリスト捜査官の捜索令状の対象になっている」と述べた。

テロを誇示するTwitterのアカウント

事件発生後、捜査官は、テロを主張していたTwitterアカウントをすぐに閉鎖した。

そこには、犠牲者の頭の写真が掲載されており、下にはエマニュエル・マクロンが「不信者(異教徒)の指導者」であり、モハメットを貶める人に復讐と書かれていた。

リカール検事は「このアカウントは容疑者のものでした」と述べた。容疑者の携帯電話からは、この文面と、犠牲者の写真がみつかったという。

イスラム教徒との共生のために

容疑者は、まだたったの18歳だったという。

彼は「難民」として在住を許可されたという報道があるが、筆者の推測では、おそらく本当ではないかと思う。フランスに移住するほとんどがアフリカ出身であり、チェチェン出身のロシア人は珍しいからだ。

日本では「この事件をテロ扱いするのはおかしい」という意見が見られた。理由としては「あのようなひどい風刺画を描くほうが悪い」ということのようだ。

でも上記の内容からわかるように、これは明らかにテロである。

それに、「単一民族」を維持しようとする日本では、異なった文化や宗教をもつ人々との共生の現場や感覚が伝わりにくいのだと思う。

ほとんどのイスラム教徒は、フランスの法律と共和国の原則を守って、平穏に暮らしている。

確かに「あの風刺画はひどすぎる」と不満を表明するイスラム教徒の人はいるが、「だからと言って殺すことはない」という人も同じようにいる。

筆者の経験からすると、「シャルリ・エブド問題」では、公の場では口を閉ざして押し黙ってしまうイスラム教徒が多い。

それでも、筆者がアジア人で外国人だから警戒をといてくれるのか、「テロが起きて、イスラム教が誤解されるのが嫌だ」「ああいう人たちと同じと思われたくない」という声を聞かせてくれる。

内心はもっと色々と複雑なのだろうが、このままフランスで平穏に暮らしたいと願っている人たちの、心からの声なのだと思う。彼らは出身国に帰りたくない、フランスに住み続けたいのだ(詳細にいうのなら、移民1世と2世では違う傾向がある)。

だからこそ、政治の場面では「彼らはテロリストである」と特に指定する必要があるのだと思う。つまり彼らは特別な人たちであり、一般のイスラム教徒とは違うのだと。

だから一部の日本人がフランスを非難するのは、それはそれで一つの意見だとは思うが、当事者たちから見ると、かなり的外れになるように思う。

想像してみてほしい。自分の子供が通う学校の校門前で、100万歩譲って生徒の親ならまだともかく、全然関係ない男がやってきて「先生を的にしろ」などと叫んでいたら、宗教一切関係なく、不気味でしかないのではないか。

それに、事件の大元になった「シャルリ・エブド襲撃事件」であるが、「私はシャルリ」として、大規模な「言論を守る運動」に昇華したのは、さすがだと言わざるを得ない。

日本で同じような事件が起きたら、どうだろう。例えば、日本のある出版社が、問題を抱える近隣国のリーダーの風刺画を発表した。そうしたら、日本に住む近隣国出身の人が、日本人編集者たちを皆殺しにしたと想像してみる。

それでも「あんな下品でひどい風刺画を発表するほうが悪いのだ」などと言えるのだろうか。日本ならおそらく、その近隣国に対する反感や憎悪がわきおこり、日本に住む近隣国出身の人へのヘイト行為が噴出するだろう。そして極右的な風潮が、一気に日本に根をおろすだろう。

そういう風に国を傾けるのではなく、言論の自由を守るという運動の方向へと発展させた。さすが文明の衝突を紀元前から繰り返し、言論の自由と人権、そして政教分離の国家体制を、自らの手で勝ち取ってきた人たちは違う。。。と感服した。

一方で、問題となったあの風刺画は、ひどいレベルだとは思った。決してテロは許せないが、これではイスラム教徒が不快なのは無理もないだろう。風刺画と呼ぶのすらはばかられるほどのレベルの低さだと感じた。

つくづく「風刺画」というのは、高度な知性が必要だ(ここでいう知性は、学歴とはまったく関係がない)、でも知性がなければ風刺画を描いてはいけないというわけにはいかないし・・・と、問題の難しさにため息しか出ない。

実際には、あの下品な「風刺画」に辟易していたり、イスラム教過激派が心底大嫌いだったりするフランス人は多いと思う。あくまで筆者の周りの話だが、「私はシャルリ」運動には賛成するし、デモに参加した人すらいたが、「シャルリと私は同じじゃない」と言っていた友人は、結構いた。

公には出にくい声ではある。現代フランスのタブーであろうか。

でもこうして彼らは、フランス共和国の大義「自由・平等・博愛」と、政治と宗教を何としても分ける姿勢、そしてイスラム教徒との「同じ人間」としての共生社会を守ったのだと思う。

これからは「教育」を守る戦いが始まるのだ。

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